僅かに芽生えた恋心
「明日、この島を出る」
ログも溜まったしな。そう言って、いつもどおりのような、そうでもないような笑顔を見せるルフィに戸惑いが出た。
まだゆーりは答えが出せずにいた。
「そう」
短く答えた言葉は、若干震えていたような気がする。
「ちょっと、準備あるから、酒場に戻るね」
いつもならもうちょっと話していた。
だけど、心の整理が追いつかない。
明日で、ルフィとお別れになる?もう、会えなくなる?
そう思うと、心がギューッと苦しく、切なくなって、酒場に飛び込んだ。
「どうしたの!?」
いつもと違う様子で飛び込んできたゆーりにお姉さんがびっくりした顔で出迎えた。
「お姉さん…」
ぎゅっと胸のところを握り締めて俯く。
その場にまばらにいた客は、空気を読んでお支払いを済ませて出て行った。
最後の客が出て行ったのを確認したお姉さんは、表のプレートを“close”に変えた。
「どうしたの?」
優しく問われた言葉に、自分の言葉よりも先に涙が溢れた。
ぽんぽんと宥めるように背中を叩かれ、さらに涙は勢いを増した。
「私…私…っ」
涙ながら、彼女はここ数日の思いを話した。
優しく打たれる相槌に、口から溢れる言葉は止まらず、自分で意識していない言葉がポロっと、こぼれ落ちた。
「私、ルフィが好きなんです…!」
言葉にした瞬間、実感が沸いてきた。
あの時間が楽しかったのは、あの時間が楽しみだったのは。
――ルフィが、好きだからだ。
でもこんな邪な気持ちで、船に乗って迷惑にならないか、同時に不安になった。
それでも一度意識してしまうと想いは止まらなくて、加速していく。
それに、明日ルフィは居なくなる。
それが何より心を締め付ける要因でもあった。
「そんなにも辛い顔をするなら、ゆーりは船に着いていくべきだわ」
真剣な眼差しでお姉さんは答える。
その瞳に吸い込まれるように見つめ返す。
「たしかに、ここからゆーりが出て行くのは寂しいし、同じ気持ちを持っている人はたくさんいると思うの。でもね。運命、っていうのを信じるのなら、今あなたが踏み出す時よ」
「踏み出す時…」
「辛くても、苦しくても、あの人の傍に居たいんでしょ?」
「…はい」
「じゃあもう、答えは決まってるじゃない」
そう言ってお姉さんは涙を携えながらも、綺麗に微笑んだ。
それと同時に、私の気持ちは固まった。
「ありがとうございます」
「うん、じゃあ今日がファイナルショー、ね」
「はい、よろしくお願いします」
私は、ルフィに、着いて行くんだ。
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