笑顔の風は真上からっ | ナノ

揺れる水面と私


ゆーりの仕事は、ほぼほぼ夜に固定されている。
酒場自体は昼間から開いてるけど、彼女の仕事は夜のショータイム限定となっている。
それまでの時間は、彼女は海のそばにいることが多かった。
元板世界が港町だったからか、気が付くとずっと海を見ていることが多かった。
それまでは何も考えずに海を見ているだけで癒されている状態だったが、今はそれどころではない。


(私が、海に)


この世界に順応してきたとはいえ、あんなまっすぐな勧誘はあの酒場以来だった。


(私は、どうしたがいいのかな)


この島に、酒場に恩義はある。身元もわからないようなゆーりを面倒見てくれた、優しい町だ。彼女もこの町が気に入っている。
だけれども。


(どうしよう…)


彼女の心は、船で生活する彼の話を聞いてそっちに心が向いてる自分が居る。
押し寄せる波を見ながら、その満ち引きは今の自分を表しているようだった。


「おー!ここにいたのかー!」


背後から聞き慣れた声がした。
振り向くときに無意識に溢れた笑みに、この時は何も気付かなかった。


「ルフィ」


名前を呼べば、ニカッといつもと変わらない笑みを向けてくる。


「こんなとこで何してんだ?」


不思議そうに聞くルフィに、どう答えるものか、と悩んだ。
今の自分の気持ちを素直に相談するか、それとも、濁すか。


「この満ち引きがね、今の私みたいだな、って」


「???」


わからない、という表情をするルフィにふふっと笑う。


「私の中にね、二人いて、どっちが本当に自分が求めてるものかわかんないの」


「思う方でいいんじゃねーか?」


不思議そうな顔でそう答えるルフィ。


「うん。そうなんだけどね…」


この島には、思い出が多すぎた。
愛してくれる人が、多すぎた。
だから、一歩が踏み出せない。
そんな状況だった。




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