笑顔の風は真上からっ | ナノ

特別なことなんて何もしてない


連日続くレッスンに体中が悲鳴を上げる。
体はクタクタで、常に眠気に襲われてる。
自分が望んで進んだ道だけど、ダンサーとはこんなにも辛いものか。


子供の頃から踊ることが好きでジャズとヒップホップを習っていた。
好きがいつしか夢になり、それに向けてまっすぐ進んできた。
そうして年月が立ち19のとき、プロダクションのオーディションに受かって今事務所預かりのダンサーとして働かせてもらってる。
夢は叶った。確かに叶った。
でも夢は夢だったのだ。現実は厳しい。楽しかっただけではすまないのだ。苦手は苦手のままではいられないし、毎日毎日レッスンでインストラクターの先生に怒られ続けて精神的に疲弊していた。


「・・・海が見たい」


私の実家は港町だった。
唐突に恋しくなって、電車に飛び乗った。
明日の始発で帰れば問題ない。そう思ってちょっとした現実逃避へと旅立った。



海の見える駅で降りて、少し早足で海に向かった。
久々の海に心が躍った。
砂浜に着いて、イヤホンを耳につける。
流れてきた曲に、視界に写っているものにテンションが上がる。
何も考えずに足が動く。手が、体が音を刻む。
久しく忘れていた何かが、こみ上げて一晩中躍った。



そう、確かに現実逃避だったのだ。


「・・・んぁ?」


気がつくと疲れて眠ってしまっていた。
それもベンチとかそういうのの上じゃなくて砂浜の上。
どれだけ無用心なんだ・・・と自分で呆れる。
そろそろ帰ろう。そう思って鞄をもって振り返る。
振り返ってすぐ駅が見える、はずだった。


「ここどこよ・・・」


あったはずの駅が無く、そこには一本続く道があるだけだった。


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