1話
「うはー、何時見てもデッカイよなぁ…」
ハロー、ハロー。
時差ぼけで超眠いなか、帰ってまいりましたよ。
―ただいま、諸君。なんちって。
そんなことを思いながら、タクシーを降りて、校門の前に立つ。
ここは、とある県の山奥にある私立青蘭学園。
幼稚舎から大学院まであるこの学園は、生徒父兄による多額の寄付金で作られた国内で有名な超ブルジョワ学園。
生徒は全員男で、まさに男の園。
幼稚舎から居る僕からしてみれば、同性愛がどうのってのは、もうどうだっていい。
好きなんだったらそれでいいじゃない。って思うしね。
……っと、話が逸れた。
僕はそんな学園の高等部に在学していて、ついさっき留学先のドイツから帰国したばっかり。
中世ヨーロッパ貴族の豪邸の門かよっ!ってツッコミをいれたくなるほど、大きくて厳正な校門の前でそうしみじみ思った。
「おろ?」
いつものように、守衛さんに門を開けてもらおうって思っていた僕の視線の先にはもじゃ頭の子が。
え、ちょっと待って。あの子うちの学園の子?…嫌だなぁ、品位に欠けちゃう。
なんて、思っていたらその子とバッチリ目が合った。
「あー!お前!何?この学校の人?俺、天王寺 ゆうたっていうんだ!ゆうたって呼んでくれよ!お前なんて言うの?」
…何こいつ。何こいつ何こいつ。
五月蠅いんだよ、耳痛い。え、やだよ。僕仲良くしないから静かにしてよ。
「なぁなぁ!名前!名前何て言うんだよ!人が名乗ったんだから、お前も教えなきゃだろ!」
えー、何、こいつ。
もーやだ、誰か助けてよ。これ本当に人類?猿類じゃないの?キーキー五月蠅い…。
…と思いつつも、マナーはマナーだ。
「ごめんね。僕は芸能学科三年の宮本っていうんだ」
そう言って微笑めば、不満そうな顔をする。
…僕ちゃんと自己紹介したじゃんかぁ。
「俺が聞いてんのは名前!友達なんだから、名前で呼ぶのは当たり前だろ!」
……えー…。
いつ友達になったの、僕ら。それにさー…
「天王寺くん。君、何年生?」
「ゆうたって呼べよ!俺ら友達だろ?あ、俺は二年なんだ!」
…もー、いちいち五月蠅いなぁ…。
「そっか、じゃあ天王寺くんは…
「ゆうたって呼べってば!」
…僕の後輩になるわけでしょ?年上に敬語を使うのがマナーってものじゃないのかな?」
そう言ってにっこり笑ってやれば、ますます顔を歪める。
なんなのさー、本当に。
「先、輩…。そんな、敬語なんて堅っ苦しいじゃんか!それに、友達なんだから、そんなに言わなくてもいいだろ!?」
……うん、ごめんね。
もう君とは関わらないよ。うん。
そう決めて、未だ喚き続ける猿をおいて守衛さんの所に行った。
「こんにちはー。山本さーん」
扉を軽くノックすれば、ゆっくり開くドア。
「おー、って宮本か!お前帰ってきたのかー」
「うん、ただいまです」
あー、山本さんって、癒されるなぁ…。マイナスイオン出てるんじゃない?マジで。
もうほら、特に今日は疲れちゃったからさぁ…。
「今、門開けるからな」
そう言うと、山本さんは機械を弄って門を開けてくれた。
うー…早く部屋に帰りたい…。
門をくぐると…そこはお城でした。
…ってなんでやねん。…一回やってみたかったんだよね、これ。
なんて、思いながら歩いていると、僕の目の前には生徒会副会長のりゅーじんがお待ちでした。
「あれー?りゅーじん。何々?僕のお迎え?」
「その呼び方は止めなさいと言っているでしょう。僕は転入生を…」
「あー!お前!!」
後方から聞こえる大声に、思わず体がビクッてなった。
うわーん、猿が来ちゃったよー!
「りゅーじん、後は頼んだよ!」
「はい?」
不思議な顔をしたりゅーじんをおいて、僕は寮に走った。
寮へ向かってる途中、何人かの人に会って名前を呼ばれたけど、笑顔を向けるだけで、お話なんてできる余裕はなかった。
(だってなんだか、あの転入生が追ってきそうな気がして…)
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