わざと逸らす視線

貴方を見つめるの




いつでも、そっと




でもね、逸らすの




貴方がこっちを見たら。




わざと逸らす視線



「まぁた飽きもしないで見てんの?」


「うるさいわね、ベラ。関係ないでしょ?」


「…そんな邪険にしなくても」


はぁ。とわざとらしく溜息を吐く同寮のベラトリックス。


「だいたい、見てるだけじゃ何も進まないんじゃないかい?」


「私にあの集団に飛び込めってか」


私の想い人…シリウスの周りには、いつも取り巻き(?)のお姉さま方。
…しかも少しケバイ(化粧とか。本当に学生か)
…しかも少し怖い(いろいろと、ね)
…そして少し痛い(発言が…)


そんな事を考えていたら、ふとこっちを見た(ような気がした)シリウス。
私はそれに気づくと、すっと視線を逸らした。


「何逸らしてんの、シリウスこっち見てるよ?」


「いいのよ!」


「まったく、そんなんじゃいつか禿げるわよ」


「…ハゲはルシウス先輩よ」


「誰がハゲなのかな、ぱふぇ」


何時の間にか私の隣に現れたルシウス先輩。



「何時の間に来たんですか」


「今」


「一言で返さないでくれますか?」


「いいではないか、別に」


当たり前のように私の隣に腰掛ける。
その立派なおでこを広げてさしあげましょうか。


「駄目だ」


「まだ何も言ってないですよ」


「さっきから声に出てるが?Ms.ぱふぇ?」


そういうルシウスの隣で、げらげら笑うベラ。
…あなたも一応いいとこのお嬢様よね…?



「で?何の用ですか?」


「ん?」


私が聞くと、間抜けな返事を返す。…私は慣れてるから平気だけど…


「…それ、ただの間抜けにしか見えないから止めたらどうでしょう?」


「間抜けではないが、今はいいのだ、それで」


「いや、良くはないでしょ」


「うるさいぞ、ベラトリックス」


テンポの良い返しで言うベラとルシウス先輩。しまいには先輩に対して「デコッパチ」というベラ。
…うん、お前ら最高だね。


「だから…「…話ずれてますよ」


言い返そうとするルシウス先輩を遮って、私は話を戻そうとした。



「…何の話だったか?」


「…忘れた」


「……使えないわね。まったく」


はぁ、と思わず溜息を吐き、二人を呆れたように見る。


「溜息吐いたら幸せが逃げる」


冷静に返す先輩に、また溜息を吐きそうになった。


「……もう逃げてるわよ」


…こんな性格になったときからね。


「そんなこと言うな。今日は吉報だ」


「先輩の吉報は大して吉報じゃないことが多いですよ」


前の吉報は、ナルシッサ先輩がどうのこうの、って話で(よく覚えていない)
私には大して吉報ではなかった。


「そんなこと言わずに…」


「言いたくもなるわよ」


「そういうな…吉報というのは…「ルシウス、授業に間に合わなくなるぞ」


同じ学科の人に見つかり(何時の間にか始業5分前)半ば引きずられるようにして教室へと連れて行かれる先輩に、ひらひらと手を振り見送る。


「結局なんだったんだよ、あのデコ」



「いなくなったからってそんな言いようは無いんじゃないかい?」


「いいのよ、ばれなければ」


(アイツも哀れだよなー)


勿論、このときにベラが思っていたことは、私に筒抜けである。だって口動いてたし。スラグホーン先生の授業中。わけのわからない調合を黒板に並べ、説明している先生を見るのに早速飽きた。まだ15分と進んでないけど。


「ベラ―暇ぁー」


「…今話しかけないでくれるかい?」


案外優等生のベラは、真剣に調合に取り組んでいる。
私はつまらなくなって、教室を見回した。


「あ、いた」


教室の奥では、シリウスがポッターとなにやら真剣に話していた。
あぁ、絶対よくないこと企んでる…でもやっぱりかっこいい。


「あんた、そんなに好きなら告白しろって言ってるじゃないか」


そんな私を見兼ねてか、ベラがボソッとそう言った。


「じゃぁ、シリウスが1人になってるの見たら告白するよー」


冗談交じりにそう言うと(ぶっちゃけ、真面目に聞いてなかった)ベラが驚いたように私を見た。


「…絶対だからね」


「…ベラが本気になって如何するのよ」


いつも以上に真剣に言うベラに、思わず噴出しそうになった。


「うるさいわね!!」


…ベラのあげた声によってスラグホーン先生に見つかり、授業後罰則となった。
…なんか私巻き込まれただけじゃない…?


ズラグホーン先生の罰則も終え、大広間の前に座ってボーってしているシリウスがいた。
…その姿も絵になるな、畜生。


「あれ?シリウス、何してるの」


「んー…1人になったらぱふぇが話しかけてくれるってあいつが言ったから…かな」


「は?」


確かにそんなこと言ったけど(そのせいで放課後呼び出しくらったんだし)


「あ?違うのか?」


いやいや…そんな綺麗な顔して小首傾げないでください…なんだか私が虚しくなるから…!!


「違わない、けど」


「ならいいじゃねぇか」


確かにあのくそ暇な授業中にそんな話になったけど!
何も本当にしなくてもいいじゃん!!(でも、嬉しいから今度甘いものを買ってきてやろう)


「で、何か話があるのか?」


「えっと、ですね…」


今考えたらシリウスと二人っきりなんて始めてだよこの野郎…っ!
しかもまともに話した記憶もないわ!!


「その…す…」


「す?」


「す…きとおったような肌してますね!」


「…へ?」


何言ってんだっそれじゃただの変態様じゃないかっ!変態様はルシウス先輩だけで十分だ!!


「っ…ハハハっ」


「は?」


いきなり腹を抱えて笑い出したシリウス。…そんなに可笑しかったか、少し傷つく。
…いや、そんなに柔な性格してませんが。


「本当…可愛いな、ぱふぇって」


「…はぁっ!?」


誰が、誰を可愛いって?
貴方の方がよっぽど可愛いですよ!!仕草が!!
「本当、大好き」


「は?」


「俺は、ぱふぇのことが好きだ。もちろん、友達としてじゃなくて、な?」


「えっと…」


「あ?こういう話じゃなかったのか?」


「いや…違わなくはないんだけど…」


吃驚してというか…なんというか。


「じゃぁ、返事聞かせろよ」


何時に無く真剣な顔で言うシリウスにキャラじゃないけど、キュンとしてしまった。
そういう顔は本当に格好良くてずるいと思う。


「ぱふぇはどうなんだ?」


「私は…」


今、言わなきゃ女じゃないぞ。なんて自分を奮い立たせてみたり。


「好き…だよ」


そう言った瞬間、暖かい温もりに包まれた。


「やっと、手に入れた」


そう呟いたシリウスが、今まで見たことの無いくらい素敵な笑顔で。
きっと、この表情を独り占めして良いのは、私だけなんだって思った。

長い長い片思い。
実らせると一気に花は開いていく。
でもその花は萎む事はなくて。
永久に咲かせる花となった。

わざと逸らす視線。
それは花を咲かせる前の蕾の証。



END


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