愛した時と場所で紡ぐ
聳える城。
ここに通って7年が経った。
たくさんのことを学んだし、大切なものもたくさんできた。
愛することを、知った。
そんなこの場所を、離れる時が来てしまった。
愛した時と
場所で紡ぐ
卒業式も終わり、私は最後だから、と池の近くのお気に入りの場所に来ていた。
思えば、ここが私にとっての始まりで、一番大事な場所だった。
「ユウカ〜!!」
少し、思い出に浸っていると離れたところから名前を呼ばれ、振り向いてみれば、いつものグリフィンドールの皆がこちらに向かってきていた。
先ほどまでたくさんの在校生に囲まれていたはずの彼らは、そんなことで疲労を感じてはいないのか、本当にいつもどおりだった。
「ユウカ、やっぱりここにいたのね」
彼らが向かってくるのに意識を向けていたからか、急に背後から声がして思わず肩が跳ねる。
「リ、リリー…。もう、驚かさないでよね!」
ふふ、っと笑みを零すリリーに少し怒ったように言えば、笑みを濃くする。
「リリー!君も来ていたのかい!?どうしてボクも連れて行ってはくれなかったんだ」
「あら、あなたが囲まれていたからでしょう?」
もう付き合って3年目になるというのに、相変わらずの二人を見て思わず苦笑する。
「あいかわらずだな、あいつらも」
「そうだね、あれでこれから一緒に生活できるのかな?」
「まったくね」
シリウスとリーマスの言葉に同意すれば、後ろでピーターの笑い声が聞こえた。
そんなピーターにつられて4人で笑えば、顔を赤くして怒るリリーと少し鬱陶しいジェームズも混ざって、もう何がなんだかわからなくなってくる。
そんな他愛もない時間は、もう本当に少なくて。気を抜けば涙腺が緩んでしまいそう。
「いやー、このメンバーに出会えたのは最早運命だね!」
「と、唐突だね。ジェームズ」
「…もっと言ってやれピーター」
「そうそう、こんなはずかしいこと言う君だったかい?」
男の子たちはジェームズの言葉に照れくさそうにして、私とリリーは、顔を見合わせて笑った。
「だって、そうだろ。ここで出会えたのも何かのめぐり合わせだったんだよ。勿論、我々悪戯仕掛け人も、リリーも、ユウカも」
「わかってるわよ。私とユウカが運命の赤い糸で結ばれていることくらい」
「リリー!そこはボ・ク・と!赤い糸で結ばれているんだろう!?」
「はいはい。夫婦漫才はわかったから」
そう言って二人を宥めれば、また笑いがこだまする。
……でも、もうこんなに笑ってなんていられないのかもしれない。
ううん、確実に笑っていられなくなる。
だって、一歩ココから出てしまえばそこはもう暗黒時代。
誰かに守ってもらえることなど、ないのだから。
「もう、戻れないね」
ポソッと小さく言葉を落とせば、シリウスに頭をポンと叩かれた。
「戻れはしない、だけど進むことは出来るだろ?」
「そうだよ、ユウカにはもうボクがいるじゃないか」
「俺たちだろ、リーマス」
「やだなシリウス、冗談だよ」
シリウスとリーマスのやりとりに、つい笑ってしまえば二人もなんだか安心したような顔をした。
「じゃあ、約束しようじゃないか!」
声を高々に言うジェームズに皆で首を傾げる。
「ボクたちが、またこうやって笑いあえる日が来る約束を」
にっこり笑うジェームズ。
それに少し呆れながら笑った。
「…さっきから恥ずかしいことばかり言ってるけど大丈夫なのかな」
「寂しいのよ、ジェームズだって」
小さくリリーに耳打ちをされて、また二人で笑った。
「そこ!内緒話は良くないとおもうよ!」
「煩いわよジェームズ。女の子の会話なんだからいいでしょ?」
「そうだそうだー!」
二人で反論すれば、しょぼんと肩を落とすジェームズ。
それにまた、皆で笑うんだ。
「さて、そろそろ時間ね」
リリーの言葉に名残惜しく思いながらも腰を上げる。
他の皆も、そのようでいつもより動きが鈍い。
立ち上がってホグワーツ城を見つめればいろんな思いが溢れてまた涙がこぼれそうになる。でも、もう前に進む時間なのだ。
「…行こう」
荷物を手にお気に入りの場所、大好きなホグワーツ城に背を向ける。
汽車に乗ってしまえばもうここは見えなくなる。
だから、ここで。
「お世話に、なりました」
城に頭を下げれば、他の皆もそれを真似して。また笑いあった。
―――――また、皆で会おうね。
そう、心の中で祈って。
End
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