黙ってなんて、いられない
池の近くの木陰に2人。
その空気はどことなく甘い。
「セブルス、」
「ん…」
ユウカはスネイプと共に昼食をとっていた。
最初は恥ずかしがっていたスネイプも、今では慣れてしまったのか、彼女にされるがままだ。
彼女、ユウカはグリフィンドールに所属するホグワーツでトップクラスの頭の持ち主で、彼、スネイプとはもう付き合って1年が経とうとしていた。
そんな彼女の最近の悩みと言えば、専ら同寮生の4人組であった。
実質、加害者は2人ではあるが、傍観を決め込んでいる残りの2人も最早同罪である。
それに、彼らが現れるのは決まって
「おや、また君たちはここに居たのかい?」
――決まって、2人の昼食時なのだ。
「なにか用なの?ジェームズ」
「いやいや、君には用はないよ。僕が用事あるのは、そこに居る彼だけだからね」
そう言ってジェームズが杖を向けたのは、ユウカの隣に座るスネイプ。
もちろん、彼女はすでにそのスネイプへの“用”が穏便なものではないことを把握している。
「毎日毎日、ご苦労なことだな。そんなにお前たちは暇なのか?」
嫌みを言うスネイプの手が微かに震えているのをユウカが気付かないはずもなく。
その手を優しく包み込むように握った。
「あ?その大事なユウカに隠れてなきゃ強気なことは言えないのかよ?」
ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべるシリウスに、スネイプは奥歯を噛み締めた。
隠れているつもりはないが、今表に出ても恐怖によって体は動かないであろうことがわかるからだ。
「いい加減に、しなさいよ…?」
黙って話を聞いていたユウカが立ち上がりスネイプの頭を優しく撫でた。
「この子が、いったい何をしたっていうの?私にちゃんと、理解できるように、説明してもらえるかしら?」
日々の鬱憤も溜まってか、いつも以上に凄みの増す彼女に4人は思わず後ずさった。
「ほら、言ってごらんなさいよ…」
「ユウカ…そのくらいにしておいたが「セブルスは黙ってて」…」
彼女に危害が加えられるのが嫌で、ユウカを宥めようとするも、あえなく失敗に終わったスネイプに為す術はなかった。
「そんなの決まってるだろ?そいつが、目障りなんだ」
シリウスが当たり前のように口にした言葉にユウカの怒りは頂点に達した。
「そう。なら、私からしたらあなた方が目障りだわ」
ローブから杖を取り出してシリウスに向ける。
シリウスも、何がくるかわからないこの状況に杖を構えた。
しかしその直後、彼は彼女の攻撃によってぶっ飛ばされることになる。
そしてそのままターゲットはジェームズへと変わり、彼もまた、シリウスと同じように飛ばされた。
「ジェームズ、シリウス…!!」
慌てて2人に駆け寄るリーマスと、今起こったことを上手く把握できないピーター。
「さ、早く2人を連れて行ってちょうだい」
そう言い終わると、リーマスもピーターも申し訳なさそうな顔をして、文字通り2人を引きずってその場を後にしていった。
「ユウカ…」
「あー、すっきりした!!!」
そう言ってスネイプの隣に再び腰を下ろし、彼の肩に頭を寄せた。
「無言呪文ってさ、集中力がいるから、ね」
「…無茶をするからだ。バカが…」
―心配、させるな。
スネイプの小さな囁きは彼女の耳に入り、ユウカの表情を綻ばせた。
「セブルスは、私を甘やかしてくれるわ。
だからそのお返しをしただけだよ」
「……」
優しく彼女の頭を撫でれば、さらに近寄る2人の距離。
「私だって、悔しいんだから…ね」
そう言葉を残して眠ったユウカに、スネイプは不謹慎ながらも幸せを感じた。
「、ありがとう」
眠ってしまった彼女には届きはしないだろう。
それでも、今彼の心は満たされていた。
End.
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