愛の数だけ幸せを


内緒の恋。聞いた感じは可愛らしい。でも、実際はその反対。なんっにも良いこともないし、私はただひたすら我慢するだけ。それなのにあいつときたら...!寄ってくる女全員に笑顔振りまいちゃって。今度はいつ会えるかと梟に手紙を届けさせたら(同じ学校にいるのにこの始末!)、教授の手伝い教授の手伝い教授の手伝い...あんたは教授と付き合ってるのかっつーの!

「それは仕方ないわよ、あの優秀なトム・マールヴォロ・リドルと付き合っているんだから。敵対している寮の女と付き合っていると知られたらその時にはあんたがまず抹殺されるわ」

「ま、抹殺!?」

「当たり前じゃない、彼は寮関係なく人気だし、スリザリンの女子はもう病気みたいなものよ」

お昼休みに友人のクレラに愚痴をこぼしたおす私。彼女は面倒くさそうだが話を聞いてくれている。
クレラしか私の秘密を知らないから。私はグリフィンドール、トムはスリザリン。私とあいつの寮は長年のライバル同士。私たちはそんな状況で出会い、恋に落ちた。

偶然にもトムがラブレターを貰った直後に燃やしているところに出くわしたのが出会いのきっかけ。
最初こそ、何故か私のほうがトムノパシリになっていたが、私だってやるときはやってやった。何がって言われるとそれは企業秘密。最初に好きになるなよと言われ、絶対に惚れるものか!と思ったのですが。それからいろいろありまして。付き合うことになってすごく嬉しかったが、誰にも言えない恋がこんなにも辛いものとはその時の私は知る由も無い。

「トムの人気は分かってるけど...ちょっとぐらい私との時間をくれたっていいと思わない?!」

「そんなこと私が知るわけないじゃない。さ、次の授業が始まるわ。今日の昼休みはあんたの愚痴で終わったわね」

「すみません...」

「別にそれはいいけど。一度話し合ってみたら?時間があれば」

「時間、ね」

「しんどいなら“やめる”ことだってできるのよ」

「...」

最近ずっと会ってない。忙しいのは分かってるんだ。トムの将来のために頑張ってる。あと数年したら卒業。トムのこれからのために教授について回ることが多くなった。私も将来のことを考えなきゃいけないんだけど、何になりたいとか今子供の時に分かるわけない。周りは少しずつ卒業後が決まりだしていて不安が募る。こんな時こそ、そばに居て欲しいと思ってしまう。

「でも、邪魔したくない...応援しなくちゃ」

いろんな気持ちが混ざり合う。重たく思われたくない。だから、我慢する。そのうち少しでも会える時間ができるんじゃないかって思いながら。時には愚痴をこぼしちゃうんだけど、聞いてくれるクレラには感謝してる。

放課後、夕食の前に図書館に寄った。続き物を読んでいたので借りたものを返却し、次の巻を探す。
そのシリーズは私の背丈より高いところにあり、手をうんと伸ばすが届かない。この前は台があったはずだが誰かが移動させたのか、近くにはなかった。

「あともう少し...」

「魔法を使えばいいだろう」

「...トム!」

後ろから長い腕が伸びてくる。すぐ後ろにトムがいてドキッとした。久しぶりに見た彼に胸が高鳴る。

「しっ。司書に怒られるだろうが」

「ごめん...どうしてここにいるの?」

「ユウカを探していたからに決まってる」

トムはさっと私の取りたかった本を棚から取って私に渡した。少し呆れたような瞳が私を見つめる。それでも本を取ってくれるのだから優しいと思う。

「私を...?どうして、」

「自分の彼女に会うのに理由がいるのか?」

久しぶりにトムに触られた。頬を優しく撫でて髪に指を通す。くすぐったくて笑えばトムも微笑んでくれた。言葉を交わさなくても、思いが通じるってこういうことなのかなって感じた。

「あのね、トム―」

「リドル君どこにいるの?」

可愛らしい声が私の言葉を遮る。
無駄に良くなった反射神経のおかげで、私はトムの目の前から消えた。楽しそうな声。ちらっと覗き見ると、スリザリンの女の子が頬を赤らめながらトムと話していた。あーあ久しぶりだったのになあ。短い時間だったけど、トムに会えて嬉しかったんだけど、モヤモヤが残ってしまった。





***





またトムに会えない時間が更新されてゆく今日この頃。授業が終わり廊下をクレラと歩いていると、トムを見かけた。相も変わらず、トムの周りには女子が集まっている。溜め込んだ思いが涙となって流れようとしていたが、ぐっとこらえた。

「あんた、ひどい顔をしてるわ」

「そう?」

「こんなになるまで耐え続けるなんて私には考えられないわ」

クレラは本当に私を心配してくれていた。きっと上手く笑えてないんだろうな。深呼吸して気持ちを抑えていると、グリフィンドールのチャールズ・ポッターとその仲間の男子たちが近寄ってきた。

「やあ、ユウカ。暗い顔してどうした?」

「何でもないですよーそれより先輩たち試験勉強とか、ちゃんと卒業できるんですか?」

「そんなのどうにでもなるさ。暗いお前のために俺たちが腹が捩れるほどの悪戯でもしてやろうか?」

「いいね、久しぶりにパーっと学校を盛り上げますか!」

楽しそうな先輩たちを見ていたら私まで笑えてきて、元気をもらった。彼らの一人が私の手を取って歩き出そうとした。

「さあ、寮の談話室でパーティーでもしようぜ」

「うん、」

ふと振り返ると、トムと目が合った。無表情、だった。でもすぐにいつもの笑みを浮かべて女の子たちをかわして去っていった。

「ユウカ?」

立ち止まった私に気付いた先輩が不思議そうに名前を呼んだ。

「...何でもないです、行きましょう!」

トムはどうしてあんな顔をしたんだろう。まるで出会った頃の表情のない顔だった。





談話室で皆とパーティーをして部屋に戻ったところで忘れ物に気がついた。まさか誰かが盗むとは思わないが、別に遠くもないので取りに行くことにしようかな。談話室に戻ると、そこに人影があった。

「ここに置いてあった者知らな―」

「これか?」

振り向いた人影が持っていたものは正しく私の探していた物。そして月明かりに照らされたその顔は美しく、瞳の紅が揺らめいて見えた。

「何でトムが?!」

「馬鹿な女は口が軽いからな」

まさかとは思うけど、どうやらグリフィンドールの女子が秘密を守れなかったようだ。それにしたって、何故グリフィンドール寮に来たの?そんな疑問を浮かべていると、トムは一歩ずつ近付いてきた。

「今日はずいぶん楽しめたみたいだな」

「...うん?先輩たちは騒ぐの大好きだからね」

「馬鹿馬鹿しいほどに馴れ合うのが好きみたいだからな」

なんか、おかしい。笑ってるようだが瞳はそうではない。

「お前があの愚か者共と一緒になってくだらないことをやっていたとは」

「...何でそういうこと言うの。ていうか、そもそもここに何しに来たわけ?まさかそんなことを言うために来たの?」

黙ってしまったトム。自分だってたくさんの女子を周りに置いて微笑んでるじゃないか。私の気も知らないでさ。ムカっとした私はその場から去ろうとした刹那、身体が宙に浮いたような感覚におそわれた。ついで、いつも座っているフカフカのソファの感触が背中に広がった。

「なっ、」

「許さない。ユウカに触れていいのはこの僕だけだ」

「はあ...?どうし、んっ」

突然の口づけが私を襲う。言葉と同様に強引で、逃げることができない。嫌だと思いながらも、やがては私もそれを受け入れる。

「そう、ユウカが考えるのも見るのも触れるのも、僕だけでいい。そうだろう?」

気持ちがフワフワとして何も考えられなくなってきた頃にトムの唇が離れた。頬に触れたトムの手が冷たく感じるほどに私は熱を持っていた。

「急にどうしたの...?」

「さあな...ただ、嫉妬しただけ」

「!」

「僕が嫉妬しない人間だとでも思っていたのか?」

「いや、何ていうか、」

「できるなら、お前を誰の目にも写らない場所に閉じ込めておきたい。僕しか考えられないようにして...」

「トム」

私は最初、驚きを隠せなかったがだんだんと嬉しさと愛しさがこみ上げてきて、トムの顔を両手で包み込んだ。私の想いが少しでも多く届きますようにと。

「私が好きなのはトムだけだよ。ずっと一緒にいたい。私だって嫉妬するから、お互い様か」

私が笑えば、トムも優しく私を見つめてくれた。好きとかそんな言葉はなかったけれど、好きの気持ちを確認できたから嬉しい。一方通行の恋じゃないんだって思い出させてくれた。そして、まだ消えていない暖炉の炎に照らされて二人の影は自然に重なった。





***




翌日、私は眠い目をこすりながら大広間に向かう。あの後、久々にトムとの時間を過ごせると思い、我儘を言ってギリギリまで一緒にいた。ただ寄り添い合うだけでも、幸せだった。

「おはよーさん、ユウカ。昨日は楽しかったな」

「おはようございます、ポッター先輩」

「つれないね、俺たちの仲なんだから苗字じゃなくて名前で呼んでも構わないんだよ?」

大広間で朝食を食べていると、何時の間にか隣にチャールズ・ポッターが座っていた。クレラは教授に呼ばれていない。

「はいはい、ポッター先輩ご飯食べましょうね(私はお腹ペコペコなんですよ)」

「流すなよ〜な、今度さあー」

この人の相手は面倒だなあと思っていると、周りが少しざわめき始めた。カツカツと綺麗な足音が響き渡り、後ろを振り向くと...

「先輩、その手を退けていただけますか」

「ん?スリザリンのリドルじゃないか。寮のテーブルでも間違えたか?」

トムは私の手を引っ張って立たせてチャールズの手から引き離すと、私の肩を引き寄せた。



「邪魔、って言ってるんですよ。僕のものに触らないでください」

「じ、邪魔?」

「失礼しますね」

私の手を取りトムはスタスタとチャールズの呼ぶ声を無視して大広間を出た。私はお腹が空いていることはちゃんと覚えているが、トムの行動にびっくり仰天している。

「ねえ、トム!」

「何だ?」

「何だ?じゃないって!皆の前であんな...」

ただ面倒事を避けるためと秘密にしてきた私たちの関係は一気に露顕された。きっと今頃トムのファンたちは絶望と怒りで狂っているかもしれない。トムの相手がグリフィンドールの女子で、しかもどこにでもいるような人間だなんて、と。トムはいきなり立ち止まって私の方を向いた。

「最初からあんな小細工いらなかったんだ。欲しいものは欲しい。手に入ったなら二度と離さなければいいだけのこと」

「ええー」

「つまりは、」

私の手を掴んでいる反対の手で私の顎を持ち、上を向けて顔を近づけて言った。

「ユウカは僕から逃れられないということだ」

言い終わるや否や、優しい口づけが降りてきた。ああなんて自己中なやつなんだろうと思いながらも、私の手はしっかりとトムの背中に回っていた。好きな人に好きになってもらえるなんてきっと奇跡に近い。私はこの幸せを何としても失いたくないと思った。











(っとにもう、勝手なんだから)

(そんな男をユウカは好きなんだろう?)

(馬鹿!)

(ちゃんと本音を言うまでキスし続けるぞ)








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