ペテン師と笑う
もう少し、笑っていたい。
あれはまだ私たちがホグワーツに入ったばかりの頃。
両親共に一応魔法族だけど、ど田舎な環境で育ったからか、ホグワーツにうまく馴染めなかった。
だって、こんなにたくさんの人が同じ城に居るってことが私には信じられなくて、少し…いやかなり浮いてしまっていた。
そんな私に友人などいるわけもないし、ましては"落ち零れ"だなんて言われてしまうハッフルパフに振り分けられた私が、そんな優秀なわけでもない。
それに、自分で自覚しているていどには内向的だ。人と話すことじたいが苦手で仕方がない。
…まぁ、そんな感じでひと月を漸く過ごしたかな、っていうころ。
地理に関してはとことん弱い私がこの広いお城のつくりを理解しているわけもなく、魔法薬学の教室に向かっているはずが迷子となっていた。
「ここ、どこよ…」
確かに下に向かっていたはずなのに、いつの間にか元の場所に逆戻りしていた。
いったいどんなトラップが仕込まれているんだ。
「そもそも、なんで学校がこんなに複雑なつくりをしているのよ」
ボソッと呟くと、背後でクツクツと笑う声がいきなり聞こえて慌てて振り返った。
「ああ、すまないねお嬢さん。立ち聞きするつもりはなかったんだが…」
その人はスリザリン寮のローブにネクタイ。シルバーブロンドの髪を緩く三つ編みしている顔の整った人だった。
「どちらさまですか…?」
あいにく、外交的な人間の少ない寮の特性でか、同い年でも他の寮の子はまったくわからない現状。
大広間では見たことあるかもしれないけれど、スリザリンは私の定位置からは背を向けた場所にあるからわかるわけもない。
「ああ、私はアブラクサス・マルフォイ。…よろしくしてもらえますかな、ユウカ?」
「あれ、名前…」
「君はいろんな意味で有名だからね…もっとも、君にはよくわからないところで…だろうけれども」
クスリ、と笑うマルフォイさんは綺麗で思わず見惚れてしまう。
「さぁユウカ。急がないと魔法薬学に遅れてしまうよ」
そう言って私の手を取り歩き出したマルフォイさんの後ろをついていく。
…何でこの人、私の授業、知ってたんだろう……。
「えっ!マルフォイさんって同い年なんですか!」
魔法薬学の授業に無事間に合い、授業後にお礼を言おうと教室を出れば、面白そうにそこに居た。
「もし違う学年なら、ユウカの授業が魔法薬学だなんて、わかるわけないじゃないか」
だから、名前で呼んでいいんだよ、そう言ってウィンクを一つ飛ばすマルフォイさん…じゃなかった、アブラクサスさん。
言われてみればそうなんだけど、同い年には見えないから驚くしかなかった。
軽い話をしながらディナーを食べるべく大広間に向かえば、女の子たちの視線とひそひそ声が聞こえてくる。
そうだよね…アブラクサスさん、これだけ顔が整っているんだから注目の的だよね。
「あの、アブラクサスさん…」
「ユウカ。私がしたくてしてるんだ。君が気にすることじゃない」
そう言って優しく頭を撫でてくれるものだから、私の心臓も甘く跳ねた。
それじゃあ、と最後まで紳士的にエスコートしてくれたアブラクサスさんが、自分の寮のテーブルに向かう。
それが寂しくて、つい視線で追ってしまった。
アブラクサスさんの周りにはたくさんの人がいて、もう自分を見てくれてなど…
(―――!)
いない、そう思ったのに。
目が合って一瞬驚いたような顔をした彼が優しく微笑むものだから、私の顔も一気に熱を持ち出して慌てて顔を前に向けた。
――これが恋だなんて、気付くのはもう少し先。
ペテン師と笑う
《その後の蛇寮side》
「おや、機嫌が良さそうだね、マルフォイ」
「ああリドルか。なに、やっと姫君を見つけただけだよ」
「…じゃあもうお前に振り回されなくていいんだろうな」
「やだなオリオン、ここからが勝負じゃないか」
((……ハァ))
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