02

それから、何処と無く機嫌のいい家族に、私も漸く肩の荷が下りた。
朝食も済み、自室に戻った。
お父様、嬉しそうだったな。
お母様も、すごく安心した顔してた。
よかった…


「カリーナ!ダイアゴン横丁に行くって、母上が言っていたぞ」


「…ドアくらいノックしたら如何ですか、お兄様」


「……すまない」


お兄様も、普段はこんな失態を犯すことないのにな、なんて思うと頬が少し緩む。


「すぐに準備をします」


「…早くしろ」


閉められた扉の向こうで、おそらく微かに頬の赤いお兄様を想像して笑った。



それから慌てて着替え(何しろ待たされるのがキライなお兄様のことだ、文句を言うに決まっている)お兄様が待っているであろう大広間に向かった。


「お待たせいたし…「遅いぞ、カリーナ」」


ほら、やっぱり。
なんて、思いながらお兄様に近寄る。


「これでも、頑張ったんですよ」


「……」


返事をせずに、お母様の方を見るお兄様。
返事に困るといつもお母様に助けを求めるんだから。


「さぁ、行きますよ、2人とも」


「はい、お母様」


「…カリーナはナルシッサにべったりだな」


「そんなことありませんよ、お父様」


やっぱり、お父様機嫌がすごく良いみたい。





私はお母様に、お兄様はお父様にしっかりつかまり、姿あらわしでダイアゴン横丁についた。


「2人は先にローブの仕立てをしていらっしゃい」


そう言って連れて行かれたのは、『マダムマルキンの洋装店』と書かれたお店だった。


「私は教科書を見てくる。何かあれば言いにきなさい」


「はい、お父様(父上)」


「それでは、私も杖を見てきます…2人で大丈夫ですね?」


「勿論です、お母様」


そう答えると、お父様が頭を撫でてくれた。
2人に別れを告げ、店主らしき藤色の服を着た女性に話しかけた。


「あの、ホグワーツのローブを仕立てていただきたいのですが…」


お兄様は後ろで偉そうにしているけれど、こういうにが苦手なお兄様に、これからのことを考えると少し頭が痛くなる。


「あら、マルフォイ家の双子ね。もうそんな年に?」


「えぇ。お父様とお母様は他のお店に行ってて…」


「大丈夫よ。それでは坊ちゃん、此方の踏台に立ってもらえる?お嬢さんはその横ね」


「あ、はい」


黙って踏み台に立つお兄様の隣に立ってローブを仕立ててもらう。
私はそこまでこだわりみたいなのはないからすぐに終わったのだけれども、お兄様はいろいろ注文していたようで、時間がかかっていた。
お兄様が終わるまで、ソファーに座らせてもらうと、お店の扉の開く音がした。


(あれ…?)


なんだか、不思議な空気の子だった。
見た目は、少し貧相な感じだったけれども、雰囲気がすごくしっかりしていて、お兄様とは真逆の空気。


そんなことを思っていると、お兄様のいつもの少し偉そうな話し方でその男の子と話をしていた。
ああなったお兄様の話は長いから、私は極力聞かないように外を眺めた。
今日もいろんな人がいるな…。




「じゃ、ホグワーツでまた会おう。たぶんね」


そうお兄様が言うのを聞いて振り向けば、まだお兄様は仕立て途中だった。


(いったいどのくらい時間かけてるのかしら…)


人を待つのはキライなのに、平気で待たせるんだから…なんて思っていても口には出さない。ここでお兄様の機嫌が悪くなっても面倒だ。
お兄様の相手をしていた男の子がいそいそとお店を出て行くのを見て、少し申し訳ない気持ちになった。
男の子の連れの人…たしかホグワーツの森番だって、お父様は言ってた…。
その森番を見ていると、手に持っているアイスが食べたくなり、お兄様に買ってもらおうと決意した。


「カリーナ、何見ているんだ」


そんなことを思っていると、漸く終わったお兄様に声をかけられた。


「別に、何でもないですよ」


そういいアイスパーラーから目を外すと、お兄様が私が見ていたものに気付いたのか溜息をついた。


「…待たせたお詫びだ。買ってやる」


「本当!?」


嬉しくてお兄様の顔を見ると、仕方ない、という表情をされた。


「父上と母上には内緒だぞ」


「勿論です!」


ローブのお代を払うと、マダムが可笑しそうに笑い「しっかり奢ってもらいなさいな」と言うから、私も笑顔で答えた。




お店を出て、私はお兄様の手をひいてまっすぐ『フローリアン・フォーテスキューアイスクリーム・パーラー』へと迷わず進む。


「そんなに慌てなくとも、店は動かないだろう?」


「私の気持ちの問題ですよ、お兄様」


そういうと、もう何も言えなくなったのか、お兄様は黙ってついてきた。


お気に入りのラズベリーとチョコレートの2段アイスを注文し、受け取る。
お兄様は「…またそんな甘いものを…」って言っていたけれど、私は知っている。
お兄様の好きな飲み物の中にココア(ハチミツ入り)が入っていることを。



そんなことを思いながら、ダイアゴン横丁を歩いていると、恐い顔をしたお母様とお父様にばったり会った。
…どうやら私達を探していたらしい。
そのあと、屋敷に帰ってから2人から説教されるも、私とお兄様は顔を見合わせて笑った。

「何を笑っているのだ、ドラコ!カリーナ!!」

「「ごめんなさい…」」







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