その頃教室では、変な空気に包まれていた。
いきなりの跡部の登場にも驚いたが、何より彼が残した言葉。
『妹が世話になっているようだからな』
そう確かに言ったのだから。
大多数の人は、跡部様の妹だなんて!!と軽くショックに近いものを感じていたようだが、今まで傍観に徹していたクラスメイトは違和感に気付いたようだった。
(あの、跡部先輩の妹なら、)
あの東宮さんを苛めるようなことをするだろうか?
それによくよく考えてみれば、彼女はファンクラブからも認められるほどのマネージャーだったではないか。
そんな彼女がテニス部に不利益になるようなことをするだろうか…?
――答えは"No"だ。
自分の考えの愚かさに頭を抱えるクラスメイト。
そして、その中でも最も頭を抱えたのは。
(俺は、どうして彼女を信用してやれなかったんだろう…)
…彼、鳳長太郎だった。
今まで支えてきてくれた同志を信用せず、言ってしまえばぽっと出の彼女の言うことを優先させてしまった。
それに、自分のパートナーである宍戸の最近のことを思い返しても、彼女のことを思い直そうとは考えなかったのだろうか。
彼は、真実を見る勇気があったのに、自分はそれがなかったのかと悔やんだ。
それと同時に、悔やむだけじゃ何も進まないと感じていた。
(そうだ、神田さんはどこに行ったんだろう…。日吉なら知っているかな?)
そう思い、彼は携帯を取り出した。
―――――――――――――――――――
時を同じくして再び部室。
マナーモードにしていた携帯が震えた。
from:鳳
sub.:(non title)
日吉、神田さんがどこにいるか知ってる?
用件だけのメールに、思わず溜め息がこぼれる。
隣の宍戸さんが怪訝そうな顔で見てくる。
「どうしたんだ、日吉」
「いえ、愚かな人間が少し真意に近づいてるみたいで」
遅いんだよ、と不満そうに呟くその顔は、うっすら笑顔が見えた。
「で、其奴はどうするんだ」
宍戸さんの言葉に再び空気が固まる。
俺は、神田を助けることも、そばに寄ることも出来ず、思わず歯噛みした。
「…ざくろもああ言ってるんだ。こいつがそれでいいなら俺は何も言わない」
そう言い切る跡部部長に、少し不満を抱く。
彼女が大事だというのは、滲み出る空気でわかる。だがやはり、さっきので終わらせていいもんなのだろうか…。
「…忍足、お前東宮のそばに付け。いいな」
疑問系ではなく、確定の言葉。
「おん、わかったわ」
それがしめすのは―――――