愚か者の俺の話を、聞いてはくれんやろうか。
ざくろは、俺にとって大事な子やった。
ずっと、俺らを支えてくれて、かけがえのない子や。
せやけどあいつ、東宮は俺の気持ちもわかってて、徐々に徐々に、蝕んでいったんや。
「ねぇ、侑士先輩?」
「…なんや」
胡散臭い笑み浮かべた東宮は、俺から見てすぐ危険や、て思えた。
…他の奴らは引っかかっとったみたいやけど。
「侑士先輩、私が言う通りにすれば、ざくろ先輩が手に入りますよ」
あん時の俺は、何を考えとったんやろうか。あいつの言葉を素直に受け取ってしもて。今考えたら、そんなん許されるわけやないのに。
そして受け取ってから気付いたんや。これを破れば、ざくろに危害がいくことも。
せやから、あの靴箱の時も、部室の時も、お前を守ることはできんやった。
侮蔑の言動しかすることができんやった。
本当にお前が、ざくろが大事やったら、滝みたいに、日吉みたいに立ち向かうべきやったのに…。
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ぽつりぽつり、今までのことを話す忍足先輩。
その言葉の端々から彼の後悔や、辛さが伝わってきた。
それと同時に、甘やかな痛みと苦しさを感じた。
「ほんまに、すまんかった」
さらに深く頭を下げる忍足先輩に、お兄ちゃんが近寄る。
制服をつかみムリヤリ座らせ、胸ぐらを掴んだお兄ちゃんの顔は、今までで見たことがないくらい険しかった。
「それで、懺悔のつもりか。アーン?」
アイスブルーの瞳が冷たく見下す。
「こいつが、ざくろがお前のことでどれだけ傷ついてきたのかわかってんのか!!」
語気を荒げ、忍足先輩に迫る。
忍足先輩も自分に非があることを十分に理解しているはずだし、多分お兄ちゃんもわかっているだろう。
本当に、いい兄を持った、なんて場違いなことを考える。
「もう、やめてください」
そっと、お兄ちゃんの肩に手を添える。
まだ言い足りなさそうな顔をするお兄ちゃんを宥めるように首を横に振れば渋々、といったかんじで、忍足先輩から手を話した。
「忍足先輩、」
そう声をかければ、罪悪感に揺れる瞳と重なった。
「忍足先輩。私は、先輩の言葉を信用しても、いいんですか…?」
語尾が揺れる。
それはやっぱりここ数ヶ月で刷り込まれた恐怖もある。それよりも、信じたい気持ちが大きかった。
後ろからお兄ちゃんが優しく肩に手を置いた。
いつの間にか横に居た滝先輩も、見守ってくれているし、日吉くんも宍戸先輩もことの成り行きを見守ってくれている。
「ああ、もう俺は、ざくろちゃんを傷つけるような真似はせぇへん」
しっかり、私の目を見て答える先輩に、思わず泣きそうになる。
嫌われたと、思っていた。
もう、忍足先輩とは前のような関係になれるとは思えなかった。
いろんな気持ちが交差して、涙がとめどなく流れる。
滝先輩が優しく拭ってくれて、頭を撫でてくれた。
「私には、先輩を許す、なんてそんな偉そうなことを言うつもりはありません…。もちろん、今までのことを考えると、先輩とはいろいろありましたから…
でも、また、前みたいに戻れたら、と、願うんです」
そう、言葉にすると忍足先輩も瞳を潤ませ小さくありがとう、と呟いた。
その後、お兄ちゃんが容赦なく忍足先輩を殴って、それを見て頷いていた他の人たちを見て、ヒヤッとした。
男同士はあれでいいって宍戸先輩は言っていたけれども、やっぱりよくわからなかった。