何も理解しないままにお兄ちゃんに手を引かれ、着いた先はテニス部の部室。
「景吾先輩…?」
「もう明かしたんだ、そう呼ぶ必要は無いだろ」
そう言って、ソファーに座るように促すお兄ちゃん。
その指示通りに座ると、近くの椅子に萩先輩も座った。
「そろそろ、限界そうだったからねざくろちゃん。跡部と相談して、もう明かしてしまおう、ってなったんだ」
「ざくろの今までのこととか考慮したが…このままのほうが、お前には良い状況にはならないからな」
「…だからって、教室で言わなくても…」
お兄ちゃんたちの気持ちもありがたいくらいわかる、でも。
でも、今度はそれで空気が変になるんじゃないか、って不安もあったりする。
「大丈夫、そのための坪山だろ?」
…萩先輩、笑顔で言うことじゃないと思います…。
「それに、おそらくこれで気付く奴は気付くだろうしな」
「…え?」
お兄ちゃんの言葉の真意がわからず、聞き返す。
「考えてもみろ、お前は俺の妹だ。そうとわかっていてわざわざこの部内で揉め事を起こすか?そもそも、東宮を不要と感じているのなら、俺に言えばいいだけの話。こんなにことを荒立てるようなことしなくてもいい」
そこまで聞いて納得した。
そうだ、皆は私とお兄ちゃんの関係を今まで知らなかったからこういう事態にまでなってしまったわけだ。主観的にしか今まで物事を捉えていなかったから、客観的に見るとそうなるのか、と思った。
「まぁ、今まで頑張ってくれたざくろちゃんはすごいとは思うけどね。お兄ちゃん分から言わせてもらうと頑張りすぎだったかな」
そう言って、萩先輩が頭を優しく撫でてくれちゃったりするもんだから、今まで我慢していたいろいろがあっけなく崩れて、久々に声をあげて泣いた。
結局その日は…教室に戻ることは出来ず(お兄ちゃんと萩先輩にいいように言いくるめられて)五時間目の終わりに、宍戸先輩と日吉くん…それから忍足先輩が血相を変えて部室に飛び込んできた。
「ざくろっ!!ここに居ったんか…よかった…」
そう言葉を不意に漏らす忍足先輩。
その話し方は前に戻ったようで、でも今までのこともあって警戒は解けなかった。
「宍戸、」
「ああ、なんかざくろが居ないって知って血相変えて飛び出したらしくて、不安になって日吉と探していたんだ。そしたらこいつも…」
「忍足さんも神田を探していたんです。…まぁ、悪い意味ではなさそうだったのでここまで連れてきました」
そこまで日吉くんが説明をすると忍足先輩が地べたに膝をつき、頭を下げた。
「ほんま、すまん…っ!!!」
いきなりの謝罪に戸惑う私と冷めた目つきのお兄ちゃん。
それに、もし何かあってもいいように、他の皆さんも距離はあるものの出られるような配置になった。
「なぁ、ここからはただの俺のみっともない言い訳や…それでも、聞いてくれるやろか…?」
今までにない弱々しい声に、私は頷いた。
そしたら彼はありがとう、って優しくとっても優しく、続きを話してくれた。