#021
今日の練習が終わるまで、運のいいことに東宮さんと2人っきりになることはなかった。
まぁ、彼女はコートから離れなかったのだから当たり前だけれども。
ドリンクボトルが減っていたから、レギュラーに準レギュラー用のボトルを持っていったようだった。


「神田」


部活が終わって、今日のボトルを片付けていると、後ろから忍足先輩に声を掛けられた。


「何か御用ですか」


知らず知らず、声が震える。


「お前…「ざくろー?」」


何かを言いかけたところで、宍戸先輩の声が聞こえた。


「ざくろ、何処に居んだ…忍足、」


私を見つけて一瞬緩んだ宍戸先輩が、忍足先輩を見て表情が強張った。


「お前、ざくろに何の用だよ?」


「何や宍戸、コイツに唆されたんか?」


「いつまでも真実の見えないお前に言われたくない。俺は、気付いて、それを認めただけだ」


そう言って、私が洗い終わったドリンクボトルを片腕に持って、私を引っ張った。


「あ…」


「何もされてねぇんだな?」


宍戸先輩は心配していたのか、少しその表情に焦りが見えた。


「、大丈夫です」


そう答え、私の部室へと連れて行ってくれた。




部室の前に着くと、そこに萩先輩が落ち着き無くうろうろしていた。


「ざくろちゃん!」


私の顔を見るなり、駆け寄ってきた滝先輩に、頭をわしゃわしゃ、という音がつきそうなくらいの勢いで触られる。


「よかった…。何もなかった?気がついたら居なかったから、またあいつらに何かされたのかと思ったよ」


「すみません、萩先輩。ドリンクの片付けに行ってて…」


「…そう。さっきあの子帰ったみたいだから、今のうちに着替えておいで」


「ふふ…お母さんみたいです、萩先輩」


「え…」


少しショックを受けているような萩先輩を横目に、部室へと入った。


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