今日の練習が終わるまで、運のいいことに東宮さんと2人っきりになることはなかった。
まぁ、彼女はコートから離れなかったのだから当たり前だけれども。
ドリンクボトルが減っていたから、レギュラーに準レギュラー用のボトルを持っていったようだった。
「神田」
部活が終わって、今日のボトルを片付けていると、後ろから忍足先輩に声を掛けられた。
「何か御用ですか」
知らず知らず、声が震える。
「お前…「ざくろー?」」
何かを言いかけたところで、宍戸先輩の声が聞こえた。
「ざくろ、何処に居んだ…忍足、」
私を見つけて一瞬緩んだ宍戸先輩が、忍足先輩を見て表情が強張った。
「お前、ざくろに何の用だよ?」
「何や宍戸、コイツに唆されたんか?」
「いつまでも真実の見えないお前に言われたくない。俺は、気付いて、それを認めただけだ」
そう言って、私が洗い終わったドリンクボトルを片腕に持って、私を引っ張った。
「あ…」
「何もされてねぇんだな?」
宍戸先輩は心配していたのか、少しその表情に焦りが見えた。
「、大丈夫です」
そう答え、私の部室へと連れて行ってくれた。
部室の前に着くと、そこに萩先輩が落ち着き無くうろうろしていた。
「ざくろちゃん!」
私の顔を見るなり、駆け寄ってきた滝先輩に、頭をわしゃわしゃ、という音がつきそうなくらいの勢いで触られる。
「よかった…。何もなかった?気がついたら居なかったから、またあいつらに何かされたのかと思ったよ」
「すみません、萩先輩。ドリンクの片付けに行ってて…」
「…そう。さっきあの子帰ったみたいだから、今のうちに着替えておいで」
「ふふ…お母さんみたいです、萩先輩」
「え…」
少しショックを受けているような萩先輩を横目に、部室へと入った。