#018
坪山くんに何かあれば滝先輩かお兄ちゃんに連絡すると約束して、宍戸先輩と部室に向かった。
勿論、絶対に安全だって保障は何処にも無いわけだから、それなりの覚悟と共についていった。
少し不安だったため、お兄ちゃんに部室に居ることをメールした。


「…ん、」


部室を開けてもらい、促されて入る。


「お前に、聞きたいことがあるんだ」


扉が閉まると同時にそう切り出したのは、宍戸先輩。


「今日の朝、お前が準備していたのは俺もこの目で見た。だけど、いつもは鏡華がしているのか?」


「…ここで私が何を言っても、先輩は認めないでしょう?」


今までのことを考えれば、信用してもらえないのは目に見えている。
そういう相手に何故そこまで説明しなければならないのか、疑問しかない。


「…今までのことは、すまなかったと思っている。俺は…真実が、知りたいんだ」


そう言う先輩は今までとは違って、冷たい目はしていなかった。
どちらかというと、以前のような少し困ったような…。


「お前の、ざくろの口から、本当のことが知りたい」


その目の奥には、強い意思が見えた。


「宍戸先輩が、聞きたいことに全て、お答えします」




あれから、先輩に聞かれるままに答えた。
一つ、質問が終わるたびに曇っていく表情を見ながら、申し訳ない、と思う反面、どうして気付いてくれなかったの、なんて理不尽な怒りがこみ上げてくる。


「じゃあ、嘘吐いてんのは、東宮の方…」


「そういうことです。私の話を信じてくださるのなら」


「…信じるぜ」


「え?」


本当、どういう心境の変化だろう。そんなこと考えていたらポツリポツリ、宍戸先輩が話してくれた。


「気付いたのは、今日だったけどよ…よく考えれば、わかることだったんだ。
ざくろがコートに顔を出さない…出せない理由も、跡部がお前を辞めさせない理由も。
それに、準レギュラーの奴らの態度とか、そんなの全部まとめたら…」


言葉を発しながら、俯いていく先輩。
そしていきなり地べたに座り、頭を下げた。


「本当に、すまねぇ…!!」


勢いよく下げられた頭に少し戸惑う。
こんな、宍戸先輩見たこと無いから。


「頭を、上げてください」


正座の状態で顔を此方に向ける先輩。
その姿になんだか、胸がいっぱいになってしまった。


「正直、謝られてもすぐ許すとか、そんなのできないと思うんです…」


そう言えば、少しだけ辛そうに顔を歪める。
だって、そんな簡単なことじゃなかったから。大好きな皆にこんなにも嫌われるなんて、そんな簡単に今までどおりなんて、出来ないから。


「だけど、先輩のその気持ちを無碍にすることも、私にはできません、だから…また一から始めましょう?」


「一から…」


「はい、出会ったあの時からまた戻れるように」


そう笑いながら言えば、少し戸惑ったように宍戸先輩も笑った。
また、元に戻れるように。あの頃のように、笑えるように。


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