#017
朝練終了後、少年は1人頭痛を感じていた。


(どうなってんだ…?)


少年…―宍戸亮が感じている頭痛の種は勿論、今朝の藤堂と跡部の会話にある。


(あいつは…神田は朝から滝と準備してて、藤堂は居なくて…)


でも、藤堂はしていると平然と答えて…


ガシガシと黒く長い髪を掻く。


「どうかしましたか?宍戸さん」


「悪ぃ、何でもねぇ」


後輩の鳳に心配されながらも、彼はすっきりしない気分でいた。
いつもドリンク配りや応援など、マネージャー業を頑張っている彼女と、部活中全くと言っていいほど姿の見えない神田。
これだけを考えれば、藤堂が嘘を吐いている筈は無いのだが、今朝のことを思えば考えも煮詰まる。


「…あまり考えが纏まらないときは、文字にしてみたらどうでしょう」


鳳の後ろに居た日吉が宍戸に提案する。


「文字?」


「はい。考えるから纏まらないんです。一度紙に書いてみたら案外単純、かもしれませんよ」


「日吉、ちょっと…」


ズバズバと、思ったことを言うのはこの後輩のいいところだが、少し言い方がきついのが難点である、と常々思ってはいたが、


「紙に、ね…」


確かに彼の言う通りかもしれない。そう思い、二人に別れを告げ、宍戸は教室へと向かった。




教室に入り軽く挨拶をすると席に着く。
適当に紙を破り、日吉が言うように紙に書いてまとめた。


(あいつは…)


思いつく限り、マネージャー2人のことを書いていく。
最初は、神田の欄には悪いことしか浮かばなかったが段々前の彼女の姿が思い出される。


『亮先輩!』


笑って、名前を呼んでくれてたあの頃。
そういえば、あの頃から彼女はコートにあまり顔を出さなかったではないか。


(もし、そうなら…)


俺は、とんでもない勘違いを…――


そこまで考えて頭が痛くなった。
そう考えれば、いろいろ話が合うことも出てくる。
思いつく限り紙に書いていった。見えてきた真実を確実にするために。




宍戸はその日の昼休み、彼女の教室に向かった。
鳳と同じクラスの彼女はきっと、すぐ見つかった。


「宍戸さん!」


教室の扉に居ると、鳳が気付いて彼に近寄った。


「どうかされましたか?」


「あー、神田に用があって、」


呼んでもらおうとそこで区切ると、坪山が宍戸の方に問いかけた。
それにこのクラスの空気も一瞬張り詰めた。


「神田に何か御用ですか」


その視線はお世辞にも好意的なものとは言い難く、宍戸は少し躊躇った。


「坪山、何もそんな言い方…」


「大丈夫だよ、坪山くん」


鳳の言葉を遮って神田が答える。


「私に何か御用ですか、宍戸先輩」


まっすぐ見つめてくる彼女の視線に少し前の彼女が脳内を過ぎる。


「…部室までいいか?」


「はい、わかりました」


目前の真実を手繰り寄せた。
変わってなどいなかったのだ。彼女は何も。変わってしまったのは、寧ろ…――


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