#014
それから、部活も終わり、レギュラーの先輩達は戻ってこず、どうやら東宮さんの付き添いで帰っていったらしい。
それを聞いたときのお兄ちゃんの顔は本当に恐かった…。
誰も居ないから、安全かな、とは思ったんだけど、お兄ちゃんも萩先輩も危ないから、と言って聞かずレギュラー部室で待つように言われた。
…2人には羞恥心が無いのだろうか。まぁ、あったらそんなこと言わないんだろうけど。


なんて思っていたら、着替えの終わったお兄ちゃんに頭を叩かれた。


「何ボー、ってしてやがんだ」


「…叩くこと無いじゃないですか…」


そう不満を漏らすと、お兄ちゃんの後ろで滝先輩が可笑しそうに笑った。


「なんかそうしてると、本当に兄妹なんだな、って実感するよ」


そう言う萩先輩に、そうか、と思う。
今まで私が避けていたから、お兄ちゃんとのこういうのは皆知らないんだって。


「…おら、帰る用意しに行くんだろうが」


「あ、はい」


お兄ちゃんの後ろについて行き私達の部室に向かう。
その間も萩先輩と話したりして、ここ暫くあった学校での憂鬱な感覚はなかった。




部室の前に立ち、私が部室を開けようとするとお兄ちゃんが止めた。


「万が一に備えて中の確認をする。…樺地」


「ウス」


いつのまにかついてきていた樺地くんが、お兄ちゃんに言われ部室内を見回る。
…さすがに用心しすぎじゃないだろうか…。




「ウス」


樺地くんが何も無かったことを報告して、部室内に入った。
扉を閉め、着替えると、ロッカーの中にある3枚の写真。
1枚は今のレギュラーと撮った写真。
もう1枚は東宮さんが入ってきたときの写真。
そして、後の一枚は、


――忍足先輩との、写真。


今日のことを思い出して、胸が抉られるように痛い。
好きで好きでたまらなくて。告白する勇気なんて、なかったから。この位置関係が心地よかった。
写真の中で肩を寄せて写る二人。嬉しさと恥ずかしさで少し顔が赤いけれど、笑顔の2人。
もう、この頃みたいに笑えないのかな。
深く刺さった棘は、抜くことも無いまま残っていた。


「ざくろ?」


しばらく止まってると、不審に思ったのかお兄ちゃんが扉をノックした。


「すぐ出ます!」


まだ、これを捨てる勇気は無いから。
もう少しだけ、棘も刺さったまま。




「お待たせしました」


そう言って部室を出ると、扉に鍵をかけた萩先輩が微笑んだ。


「今日は俺が返しておくから、ざくろちゃんは跡部と一緒に帰りな」


「いえ、私の仕事ですから」


そう言って鍵を返してもらおうと手を伸ばすと、その手をお兄ちゃんに掴まれてしまった。


「今日は滝に甘えておけ、いいな?」


「…はい」


そう言われ、萩先輩とそこで別れた。
校門まで行くと、迎えの車がいてお兄ちゃんに促され乗り込んだ。
いつもは1人で帰るこの道も、今日だけは横に居るお兄ちゃんのおかげで安心して帰ることができた。


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