お兄ちゃんが部室を出て行って暫く経った。
散らかった物を片付けながら、目の前が涙で滲む。
今、私が手に持っているのは、去年の関東大会での写真だ。
先輩達に囲まれて、笑う私。この頃のことを思い出して、泣けてきた。
「ざくろちゃん、居る?滝だけど…」
「え、あ…」
萩先輩の声がして、少し躊躇う。
お兄ちゃんには、開けちゃダメ、って言われてしまった手前、どうすればいいのかわからない。
萩先輩は敵じゃない…なんて、言い方変かもしれないけれど、少なくとも、忍足先輩みたいに敵意は持っていないだろう。
「跡部に話は聞いたから、そのままで大丈夫」
私の様子に気付いたのか、少しおかしそうに言う萩先輩に安堵の息を吐く。
この、部室の様子も、今の私の状態も、見られたくないのが現状。
「すみません、萩先輩…」
「気にしないで。俺がやりたくてしてるだけだから」
いつもの調子で話す先輩に少し、安らぎを感じた。
まるで、ちょっと前までの忍足先輩との時間のように。
萩先輩と扉越しに軽く話しながら、私は部室の片付けを続けていた。
「あ、跡部。部活のほうはどうにかなりそう?」
「ああ、すまない、滝。お前も話を聞いてほしい」
扉越しに聞こえたお兄ちゃんの声に、扉を開ける。
「遅くなったな」
「いえ、大丈夫です。萩先輩も居ましたし」
「…言うねー」
嬉しそうに笑う萩先輩に私も釣られて笑った。
それから2人を部室に入れ、再び鍵をかけた。
片付けがだいぶ進んだといっても、壊れてしまったものは如何しようもない。
割れた写真立てと、中の写真。
「コイツが、これを大事にしない筈、ねぇだろうが…」
小さく呟くお兄ちゃんに俯く。そんな私の手を萩先輩は優しく握ってくれた。
「ざくろちゃんの思いを踏みにじったんだから、あいつらに思い知らせてあげなきゃね」
いつもと変わらない笑顔で言う萩先輩に、少しだけ怖かった。それはお兄ちゃんも一緒だったのか、写真を片手に止まっている。
「…今後について、話ておこう」
真剣な顔のお兄ちゃんと萩先輩。
もう、あの子の好きにはさせない。