散乱した書類、陶器、雑貨…。
それはまるで私が彼女を派手に突き飛ばしたかのように見えるくらい、悲惨な光景だった。
「神田、お前…っ!!」
そう文句を言おうとする向日先輩の声を遮るかのように、強く強く私の頬を殴られた。
忍足先輩の、その腕で。
「お前、最低やな…。鳳、鏡華を保健室に連れて行ってくれへんか?」
「あ…はいっ!」
心の底が冷えるくらい冷たい声で言う忍足先輩に、鳳くんは中央で蹲る東宮さんを抱きかかえ部室を出て行った。
擦れ違い様、彼女の口元には笑みが浮かんでいた。
また、か…
彼女に嵌められ、再び窮地に立たされたことに漸く体が認識し、動き出した。
「お前、ここまで最低な奴だったんだな。激ダサ」
吐き捨てるかのように宍戸先輩は言って、部室を後にした。
「岳人、ちょっと表で跡部たちが来ぇへんよう、見とってもろてもええか?」
「あ…おう。わかった」
ちらり、向日先輩に視線をやり部室を出るように促せば、向日先輩は拒否するでもなく従った。
“パタン”
無慈悲にも閉まるドア。
目の前には、試合中以上に冷たい瞳をした忍足先輩。
「なぁ、」
重い空気の中、先輩が口を開く。
それと同時に、此方へ近付いてくる。
私は、恐怖で体が竦んでしまって、動けないし、返事もできなかった。
「なぁ、ざくろ。俺かてこんなことしたないねん。わかるか?」
表情とは反対に、優しく問いかけるように言葉を紡ぐ先輩。
ゆっくりと、一歩一歩近付く先輩。
「せん、ぱい…」
「でも、話してもわからんモノにはこうするしか無いと思わんか?」
振り上げられた腕が示す意味を理解し、反射的に目を閉じた。
「忍足!!」
勢いよく開かれる扉。
焦ったようなお兄ちゃんの声、それから、もっと焦ったような向日先輩。
「なんや、跡部。邪魔するん?鏡華が、あんな目に合ぅたのに?」
「証拠も何も無い状態で疑って、もし違った如何する」
「はぁ?この状況が証拠やろ?コイツがこの部屋をした、コイツが鏡華を泣かした。せやろ?」
冷たい声に、思わず体が跳ねる。
心の奥底に、冷たい何かが広がるような、そんな感覚がした。
「俺はそうは思わない。そもそもざくろがやるには不審すぎる」
「…最近やけに、コイツの肩を持つんやな」
「俺は事実を言っているだけだが?」
そういうお兄ちゃんに、悔しそうに眉根を寄せマネージャー室を出て行った。
部室に取り残された私とお兄ちゃん。
息が詰まるような感覚が取れて、ゆっくり息を吐いた。
「平部員に仕事を頼んでおく。俺が来るまで扉を開けるんじゃねぇぞ」
「はい、景吾先輩」
ゆっくり扉を閉めるお兄ちゃんを確認して、部室の鍵をかけた。