#001
冷たい肌。
この雨の中、何時間こいつはあそこに居たのだろうか。
もし、あそこから落ちていたら…。
そう考えただけで、背筋が粟立つ。
この小さな体で、どれだけの苦しみを背負っているのだろうか。
俺には、それはわからない…。


「…ざくろ…」


苦しそうに時折うめくざくろの名を、俺はただ呼ぶことしか出来なかった…。
また、守ってやれなかった。
そう後悔の思いばかりが、俺の胸を押しつぶす。


生徒会の仕事でミーティング後遅くまで残り、仕事を済ませていた。
帰りの車の中、たまたま見つけたのは妹のざくろだった。
廃墟と化したビルの屋上。其処にざくろは立っていた。


「おい!止めろ!!」


そう叫ぶと、運転手は慌てて車を止めた。
普段は近寄ろうとしないこのビルに、あいつは何の用があったというのか。そんなの、今のあいつをみればだいたいの予想はつく。
…ただ、ざくろがそこまで思いつめていたなんて、気付きもしなかった。


「ざくろ!!」


埃っぽい階段を駆け上り、屋上まで着くと、其処にはフェンスに攀じ登っているざくろの姿。


「お兄、ちゃん…」


驚いたように俺を見つめる目。
其の瞬間、腕の力が抜けたのか、体のバランスが崩れた。

「っ…!!」


「危ねぇ!!」


結構な高さのフェンスから落ちるざくろに駆け寄った。
幸い、俺が居るほうに落ちてきたざくろは、俺の腕の中で気を失った。


そのまま家に帰り、ざくろの部屋に連れて行った。
俺たちを見た家政婦は、慌ててタオルなどを取りに行ったようだったが、こんなに濡れてはほとんど意味を成さないだろう。


「ざくろを浴室に運んでくれ」


近くに居た家政婦にざくろを預け、俺は自室に戻った。


部屋に入って俺に襲ってきた、今まで感じたことのない感情。
制服の袖から見えた、痛々しい痣が俺をどうしようもない無力感。
そして、手首に見える無数の切り傷。
苦しみの中の、微かなSOS。それに気付かなかった自分の虚無感。
あんなになっても、微笑んでいたアイツの胸中を考えると、どうしようもなく胸が締め付けられる。
それと同時に、俺に決心をさせた。
何があってもアイツを…ざくろを守ると。



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