#007
それから萩先輩と喋り、少し軽くなった気持ちに久しぶりの学校で安らぎを感じた。
時計を見れば、何時の間にかもう昼休みで萩先輩に謝罪をしたら優しく大丈夫だよ、って言って頭を撫でられた。


「さて、ご飯食べに行かなきゃね」


そう言うなり、私の手を掴み個室から出た。


「えっと、あの…萩先輩?」


いきなり掴まれた手に驚きながら聞けば、萩先輩はいつものように微笑んで


「一緒にご飯、食べ行こう?」


そう言って、私の答えも待たずに歩き出した。
掴まれてた手も、何時の間にか普通に繋いでいて、少し恥ずかしかったけど嬉しかった。


食堂に近付くほどに刺さる視線に俯けば、大丈夫、って言うかのように少し力を入れて手を握ってくれた。
勿論、こっちを見たりこそこそ言ってる人の中には萩先輩のファンの子も居たりして、悲鳴が聞こえたりしたけど、萩先輩はそんな子なんて気にせずに注文しに行った。


「ざくろちゃんは何食べたい?」


「えっと…」


正直この数メートルで疲れてしまった私は、ご飯を食べる気にはなれず俯いた。


「…じゃあ僕が勝手に決めちゃうね?」


そう言いながらも手を離されることは無く、私と先輩の昼食を注文する。
自分の分を払おうとしたら、萩先輩に笑顔で止められた。


「手、離すけどちゃんと着いてくるんだよ?」


「先輩、ものすごく子ども扱いしてませんか?」


そういえば軽く謝られた。
…なんだろう、この感じ。なんだか凄く子供になったような感覚。


そんなことを思いながら、ちゃんと言われた通りに萩先輩についていく。
途中足を掛けられたり、なんかいろいろあったけど、そのたびに萩先輩がその子を見ていた…っていうより見下してた。
お兄ちゃんみたいでした…うん…。


「さ、食べようか」


奥にある2人がけの席に置いて、私の座るであろう場所にオムライスを置かれた。


「…やっぱり萩先輩子ども扱いしてるでしょう」


「やだなぁ。そんなことないよ?」


そう言ってクスクス笑う先輩に溜息をついた。


「跡部が、ざくろちゃんはオムライスが好きだって聞いたからね」


その言葉に、萩先輩は私とお兄ちゃんの関係を何処まで知っているのか、疑問に思った。


「ま、詳しいことは今度、ね?」


今日何度目かの笑顔に、私は口を閉じた。


そんなちょっとした安心を噛み締めながら食事をしていると、背後で人が止まった。
その人が、周りの声でテニス部の人だっていうことは容易に理解できた。


「滝―。そんな奴と食ったら美味くねぇだろ?」


「岳人の言うとおりやで、滝。こっち来ぃ?」


声だけでわかる、ダブルスコンビ。
それまで楽しく会話していたのに、一気に胃が重くなった。


―――ここで、何か言わなくちゃ


萩先輩に対する風当たりを強くするわけにはいかない。
そう理解しているのに、口の中が異様に渇いて何も言葉が出てこない。


「せっかくのお誘いだけど、僕は君たちと食べるつもりはないから」


にっこり、いつものように笑っているようで、少し冷えた笑顔を浮かべて萩先輩は答えた。



「はぁ?なんだよ、滝はそんな奴のほうがいいって言うのかよ!そいつは鏡華を苛めてんだぜ!?」


「何も知らない君がそういうこと言うもんじゃないよ。そもそも、ざくろちゃんが仕事してないっていう証拠があるのかい?」


「そんなん、部活中にこいつが居ないの見れば…!!」


「何、騒いでんだ」


萩先輩と向日先輩が言い争いを始めたそのとき、樺地くんを従えたお兄ちゃんが現れた。
…いつもこんな奥の席なんかに来ないのに、珍しい。


「跡部!滝が、こいつといるから助けようって思って…!」


「ここは食堂だ。他の人間も居る。そんなところで騒いで迷惑だとは思わねぇのかよ、アン?」


「…っ」


お兄ちゃんの一言で黙った向日先輩と顔を歪めた忍足先輩。



「行くで岳人」


「待てよ、侑士!!」


分が悪いと判断したのか、忍足先輩は何も言わずにその場を後にした。


「大丈夫だったか?」


「あぁ、跡部。ちょうど煩わしいと思っていたんだ。助かったよ」


「…萩先輩、景吾先輩、すみません…私のせいで…」


申し訳なくて謝ると萩先輩も景吾先輩も気にするな、って言ってくれた。


「ざくろ、放課後準レギュラーの奴と一緒に俺の教室まで来い。いいな?」


「はい、景吾先輩」


そう返事をするとお兄ちゃんは昼食を取るべく、近くの席に座った。


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