#006
そのままどのくらいの時間が経っただろう。
先生方が下足室に来てくれて、私は予備のスリッパを借りて教室に向かった。
教室に入れば、突き刺さる視線。
わざと聞こえるように言われる陰口。
もうここ数日で少し慣れてきてしまった私は、もう感覚的に麻痺しているのかもしれない。


教室に入ってきた担任に、全員席に着く。
隣の席の子はあからさまに表情に出して、私を嫌悪した。


(助けて、お兄ちゃん)


声に出してはいけないから心の中で小さく呟く。
なんだか、最近弱くなってしまったような気がする。


「それでは、1時間目の準備をしておくように」


担任はそう告げ、SHRが終わった。


「神田さんってさ、暗くない?」


「あんなんでテニス部のマネージャーとか…辞めて欲しいよねぇ」


「このあいだもさぁ…」


クラスでも派手な部類に入る子たちが周りの子に…私に聞こえるように喋りだす。
それに同調して笑う人、私を蔑む人。
…もう限界だった。


気がつけば教室を飛び出していた。
教室を出る時に一際大きな笑いが聞こえたような気がしたけれど、もうそんなこと如何でも良かった。
授業中、ということで静まり返った校舎を歩く。
この時間、あまり人が居なくて気付かれない場所を、私は一箇所しか知らなかった。


“図書室”


そう書かれたプレートを見て、静かに中に入る。
予想したとおり人の姿は無くて、漸く私は小さく息を吐いた。
今まで緊張していたのか、無意識に体が強張っていたみたい。


「何か用事かな?」


いきなり聞こえた声に思わず体が跳ねる。


「あれ、ざくろちゃんじゃん」


「滝、先輩」


「やだなあ。いつもみたいに萩先輩って呼んでよ」


そう言って微笑む先輩に、少し安心した。


「ちょうど良かった。ざくろちゃんと話したかったんだよね」


にっこり、そう音が着きそうなほど綺麗な笑顔で私を促す先輩に、私は着いていった。


図書室の奥の個室スペースに連れて行かれ、其処にあるソファーに腰掛けた。


「ここ、あんまり人来ないから安心していいからね」


そう言って微笑む先輩に、体の力が抜けた。

「萩先輩、お話ってなんですか…?」


「あれ、わかってると思ったんだけどな?」


そう言われ、部内でのこと…ひいては鏡華ちゃんのことだとわかり、一気に体に力が入った。


「萩先輩も、私がしたとお思いなのですか…?」


恐る恐る訊ねる。


もしその答えがイエスなら、私はここから逃げ出さなくてはいけない。


そう思って、制服のポケットに入れていた携帯を握り締めた。


「まさか!」


そういっておかしそうに笑う先輩に、少しまぬけな顔をしてしまった。
なんていうか、拍子抜け?…そんな感じ。


「僕はざくろちゃんがいろんな仕事を今でも続けてくれていることを知ってるし、アイツが何もしていないのだって知っているよ。勿論、これは僕だけじゃなくて準レギュラーの皆もそう」


「え…?」


「だってそうでしょ?アイツが来てからも、来る前も何も変わらない。ざくろちゃんの姿が見えないのも、コートが綺麗なのも、ドリンクが変わらないのも」


見てくれた人が居た。
それだけで、私の胸はいっぱいになった。


「ねぇ、ざくろちゃん。僕にさ、提案があるんだ」


「提案…?」


なんだろう、そう思って首を傾げると楽しそうに萩先輩は笑った。
まるで、悪戯するのが楽しい、って時の子供みたいに


「そう、提案。勿論、これを聞いて乗るか反るかは君しだいだけれどね」


ふふって、笑う萩先輩。


「聞かせて、もらえますか」


そう言うと満足そうに笑って


「それはね――…」


耳元で囁かれた言葉。
それは私にとって、逃げのような気もしたけれど、でもその申し出はとてもありがたかった。


「勿論、跡部から許可も取ってある」


「景吾先輩、が?」


「うん。彼はきっとざくろちゃんが大切なんだろうね」


その言葉に一瞬ドキッてしたけれど、萩先輩は微笑むばかりで何も言わなかった。


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -