目を覚ますと、其処は見慣れた部屋だった。
どうして、こんなことになったんだろう…。あんなにも、幸せだったというのに。
あの日々は全て、偽りだったのだろうか…。そう思わずには、いられない。
『ざくろ!』
『ざくろちゃん!』
もう、あんなに優しく名前を呼んでくれていた、先輩たちは居ない。
『神田 ざくろです。よろしくお願いします。』
私は1年の時、兄に半ば強制のように男子テニス部のマネージャーにされた。
全てのことに関して、完璧主義な兄と比べられたくなくて初等部の頃から母様の旧姓を名乗っていた。
私にとってテニスは、大切なものだった。唯一、兄と対等にいられるもの。
女子テニス部に入る気にはなれなかった私にとって、兄の言葉は嬉しかった。
優しい先輩、優しい同級生に囲まれ、幸せだった。
…あの時までは。
月日は流れ、私は2年になった。
部員数も200人を超え、とてもじゃないけれど1人で全員分見ることはできなかった。
だから、私は兄に相談したんだ。
そして、それから暫くして1人の女の子が入部した。
『東宮 鏡華です。よろしくお願いします』
1年前の私と同じ挨拶の仕方。少し可笑しくて、私と兄は軽く笑みを浮かべた。
そのときの彼女は、派手な外見の割りに、真面目な子。そう、思ったの。
『鏡華ちゃん?私、神田 ざくろ。よろしくね』
そう言って微笑みかけると、一瞬無表情になって、すぐ笑顔になった。
…このときに気付いていたら、今みたいにはならなかったのかな。
彼女が入部して一ヶ月くらい経った、そんなある日。
『先輩は、なんでマネージャーになったんですかぁ?』
『んー…景吾先輩に誘われたからかな』
『そうなんですかぁ…でも、ひとつの物語に2人もお姫様は要らないんですよね』
『え?』
『だから、私だけでいいの。お姫様は』
そう言って、部室の机に盛大にぶつかった。
『きゃぁっ!!』
『どうした…っ!?』
近くまで来ていたのか、レギュラーのメンバーは私たちを見て固まった。
鏡華ちゃんの前で立っている私。蹲って自分でぶつけたところを押さえ、泣いている鏡華ちゃん。
『せん、ぱ…ぃ』
目にたくさんの涙をため、レギュラーを見る。
そんな彼女にいち早く駆け寄ったのは、侑士先輩だった。
鏡華ちゃんの体を支え抱き起こす侑士先輩。
『どしたん…?』
『ざくろ、先輩が…鏡華のこと…っ、いらないって…突き飛ばして…っ』
先輩の胸に顔埋め、如何にも泣いてます、私。って、感じの雰囲気を醸し出す。
『本当かよ…?ざくろ…』
信じられない、という目で見る岳人先輩。
『違います!鏡華ちゃんがこけて…!』
そう叫んでも、どこか冷たい目で見られる。
この瞬間、私とレギュラーの信頼関係は音もなく崩れ去った。
…それから、だ。先輩達は私を見つけると暴力をふるい、同じクラスの長太郎くんは近寄らなくなり、私は孤立した。