暖かな日差し。
たくさんの人。

『答辞
春の暖かな日差しの中―――……』

体育館のステージ上で答辞を読み上げる跡部。
在校生、卒業生のすすり泣く音。

今日、この氷帝学園中等部を、卒業します。


長い長い、でも短い卒業式が終わり、最後のHRに向かった。
私が今日まで在籍したA組には、たくさんの人集りができている。


「教室入れるの、これ…」


「最後まで人騒がせな奴やな」


「いや、あんたもね」


たまたま、本当にたまたま教室前の廊下で会った忍足と話しながら立ち止まる。
忍足の後ろにはタイミングをはかっている女の子がいっぱい。あの視線で私死にそうだ…。


「何やってんだお前ら」


教室から出てきた跡部に周りから上がる歓声。というか、黄色い悲鳴。


「跡部のファンで教室に入れないんでしょうが」


「アーン?」


ちら、って女の子の方を跡部が見ると、群がっていた女の子たちはモーゼの如く道を開けた。
…これが跡部様の力か…。


「ほな、俺は教室戻るわ」


「あぁ…あんたも頑張りなよ」


「おん。ほなな」


ひらひらと手を振り教室に戻る忍足とファンの皆さん。
他の皆もあんな状態なんだろうな…。


跡部のおかげで教室に入れると、クラスで居なかったのは私だけだったらしく、全てのドアと廊下側の窓の鍵がかけられた。
確かに、あの様子だと教室に入ってきそうな勢いだったしね…。


「さて、最後のHRを、始めましょうか」


担任が笑顔で言って、私は自分の席に向かった。


HR中、担任が泣きながら話すのを聞きながら、いろんなことを思い出した。
クラス替えから、学校行事、部活に、周りの関係…。
そこまで思い出して、無意識で跡部に視線を向けた。


「なんだ」


たまたま、視線が合って正面から見る。


「別に、何も」


ふい、と視線を逸らしても、向こうからの視線を感じた。


止めて、前向きなよ。


あたしの念じたのが伝わったのか、少ししたら跡部は前向いた。

気がついたら跡部を見てた。
気がついたら恋をした。
気がついたら片思いだった。


彼は、卒業後ドイツへ行くらしい。
テニスと家と、どちらも出来るように。
そのために、影でいっぱい努力してるのを知ってるよ。
知ってたよ。だから、そんな彼を見ていたから、好きだなんて言えなくて。
重荷になりたくなくて。
私は臆病者だから、勇気がないから。
だからそっと、蓋をした。
もう、開かないように。


「名前、行くぞ」

「ちょっと待ってよ跡部!」


この教室を離れると一緒に…
ううん、あの部室を出たら、学校を出たら一緒に、置いていこう。

タイムカプセルに思い出の死体
いつか、笑って話せるよね


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