ラララ存在証明 | ナノ


  やきもちやき


(本編「たいせつなもの」閑話)







柱は柱同士で稽古をする。
この事が決定された時、私は浮き足立っていた。無一郎や他の柱の皆さんと手合わせを出来るのは勿論嬉しいのだけど、私は何よりも伊黒さんと手合わせする日を楽しみにしていたのだ。そして、それが今日この日である。

「じゃあ、無一郎は蜜璃さんとで、私は伊黒さんとね!」
「………そうだね。」
「?無一郎、なんか元気ない?」
「………別に。」

それに比べて何故だか無一郎はとても不機嫌で、私は何かしてしまったかと思案したけれど、思い当たる事はまるでなかった。

「何してる、樋野。」
「わわっ!すみません、師範。」
「俺はもうお前の師範ではないが?」
「分かってますよ、もう!でも、今日くらいは良いじゃないですか!」

態とらしく頬を膨らませてやれば、やれやれと溜め息を吐かれた。木刀と木刀とがぶつかり合う音を聞くたびに、何処か懐かしい気持ちが湧き上がり、心が満たされていくような感覚がした。無一郎に忘れられてしまった3年間、私が自分を見失わずにいられたのは、きっとこの人のおかげだ。伊黒さんと出会って、継子になり、そして柱にまで上がった1年間。継子の期間は、たったの3ヶ月だったけれど、あの日々は私にとってかけがえのないものだ。

「なんだその顔は。」
「ふふ、なんでもないでーす。」

兄弟のいない私にとって、兄のような存在と言っても過言でない。いつだって他の誰よりも厳しくて、キツい言葉を何度も紡がれるたびに、涙を流した。だけど、その言葉の裏には必ず優しさが隠れていることを知っている。

「………あまり、そんな顔しない方が良い。」
「えっ?」
「相変わらずお前は鈍いな。先程から、時透に睨まれているのが分からんのか。」
「あー、今日ずっと機嫌が悪いんですよね。何で何でしょう?」

さっぱり分からん、と首を傾げると、それはそれは大きな溜め息を吐かれた。

「想い人が、他の男と仲良くしているのを見て、面白くないと思うのは当たり前だと思うが。」
「ええっ!!?あり得ないでしょ。じゃあ、伊黒さんは嫌ですか?」

チラリと仲睦まじそうに稽古に励む蜜璃さんたちを見る。

「ああ、面白くないが?」
「大人気ない。」
「ほう…生意気言うのはこの口か?」
「いだっ、痛い痛い痛いです師範!!」

涙目になりながら睨みつけると、ようやくつままれていた頬から、伊黒さんの手が離された。そして再び蜜璃さんたちに目を移す。私が、あの2人にやきもちとやらを焼くことはない。だって、どこからどう見ても姉弟のようにしか見えないのだ。それは私と伊黒さんにも
言えることのはずだ。

「伊黒さんは私にとってはお兄ちゃんのような存在ですよ?」
「お前のような手のかかる妹など願い下げだ。」
「酷い!!」

わーん!どうしてですかー!と泣き真似をして、伊黒さんの背に縋り付く。

「だから!そういうところを止めろと、「ねえ、さっきから聞こえてるんだけど?稽古サボって随分楽しそうにしてるね2人とも。」…時透。」

いつのまにか背後に立っていた無一郎が私の手をとって、伊黒さんから引き離した。

「随分楽しそうだね、薫?」
「む、無一郎………」

にこりと笑った無一郎の顔は、どこか怖かった。当たり前だ、何しろ目が笑っていないのだから。

「言っとくけど、伊黒さんの言うことは合ってるからね?」
「?」
「もう少し、自覚持ったら?薫は、僕のでしょ。」
「!」

グイッと引き寄せられて、その胸元に顔を埋められる。きゃーとどこか嬉しそうな蜜璃さんと、呆れた様なため息を漏らした伊黒さんがこちらを見つめていて、恥ずかしくなってそれから逃れようとしたけど、無一郎は離してくれなかった。














(2人の間に何もないことくらい分かってる。
今の君がいるのは、あの人のお陰と言うのだって分かってる。
まだまだ大人になれない僕は、面白くないと思うだけでは留められない。
あの人の様に、面白くないと眺めるだけでいられる様になれるだろうか。
だけど、君の困り顔も悪くないと思ってるから、そんな未来は来ないんだろうなあ。)











20200630




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