ラララ存在証明 | ナノ


  来世へと馳せる


※死ネタ、バッドエンド
(本編IF、夢主が鬼化してしまったら)















僕にとって、樋野薫という存在は、何よりも大切なものだ。僕は彼女がいないと生きていけないし、自分の命に代えても守りたいと思う。もしも僕が果てたとしても、その先の未来も彼女には歩いて欲しい。願わくば、幸せになってほしい。いつもそう思ってきた。剣の道なんて歩まず、医術の道だけを選んで生きていってくれれば良いと思っていたのに。変な所で頑固な薫は聞き入れてくれないし、何よりも俺が記憶を取り戻した時には、柱にまでなっていた上に、鬼殺隊に無くてはならない存在にまでなっていた。そんな彼女のことを、周りはこう評する。__________その歳には似合わない才を持つ、と。

実際、薫は蛇柱である伊黒さんに鍛えられたということもあって、柱として相応しいほどの剣技の才を持っている。そして、重宝される香の呼吸の使い手。それに加えて、医術にも長けるとなれば、年齢なんて関係なく誰もが薫に信頼を寄せていた。僕と1つしか変わらない普通の女の子だということを知ってるのは、きっと僕くらいだ。

____________________ もしも、私が馬鹿な真似をしたら、私のことなんて捨ててくれて良いからね。

そんな日なんて来なければ良いと思っていたのに。現実はそうも甘くないらしい。目の前で鬼の洗脳に負けてしまった薫を黙って見つめた。

「薫…」

薫が庇ってくれたとは言え、僕はもうあと数時間しか持たないだろう。治癒の技である香の呼吸の捌ノ型をもし、彼女が使えたとしても、だ。

「っ…、ふ、あ…血が、血が欲しい!!喰ってやる!!」

不死川さんや悲鳴嶼さんには先を急いで貰った。これをやる役目は、きっと俺でなければならない。フウウウウ…と呼吸を整える。出来れば苦しまずに、一瞬で終わらせてあげたい。そうだよね、兄さん。此処にはいない、片割れの存在を頭に浮かべた。

「薫…絶対に、君を1人にはさせないよ。一緒に、逝こう。」
「ははっ、何言ってんの?」
「僕の大好きな優しい薫に戻って。」

薫は、誰よりも優しくて真面目な女の子だった。ちょっぴり泣き虫で、よく僕の後ろについて来て、しがみついて。僕が優しく笑えば、嬉しそうに頬を綻ばせて、そんな彼女の顔が大好きだったのに。鬼の姿になってしまった彼女の瞳からは、赤い涙がこぼれ落ちている。ずっとずっと耐えてきたはずだ。負けたくない、負けるものかと苦しそうにしている姿を覚えてる。だから、鬼の洗脳に負けたことを責めるつもりはない。墜ちてしまった今となっても、僕を傷付けまいと必死に戦ってくれてるのが分かるから。

フウウウウ…

「"霞の呼吸 漆ノ型 朧"」

一思いに散って欲しい。花のように笑う君がとても愛おしかった。少しだけ早く君が向こうに行っても、兄さんがついててくれるから。僕は君が逝ってしまうのを見届けてから、そちらに行くよ。怖くないよ。大丈夫だよ。

「あ、…無一郎」

鮮やかな血飛沫が、俺に降りかかる。ポロポロとこぼれ落ちるそれを、そっと包み込んだ。

「薫…ずっと、僕の側にいてくれてありがとう。薫がいてくれたから、僕は強くなれたんだ。薫は僕の強さの証明だ。」
「……む、いちろ」
「きっと、兄さんが迎えに来てくれるから、そのまま受け入れて。大丈夫、僕もすぐに追いつくよ。そしたら、また3人で笑い合おう。」

ありがとう、という声が聞こえてきた気がした。来世こそは、幸せになりたいね。そう言って君は消えていく。それを見届けてから、僕は仰向けになって倒れ込んだ。いつだったか、甘露寺さんが素敵な句を見つけたのだと僕に教えてくれたのを思い出す。それを筆頭に、沢山の思い出が頭の中に流れてきた。その中で1番多いのは、やっぱり君の笑った顔なんだ。これが所謂、走馬灯というやつだろうか。

「来世か、」

信じるか信じないかは人それぞれだろう。死んだことがないのだから、わからない。だけど、もしそれがあるのだとしたら。もう1度、僕は君を選ぶよ。今度こそ、君を救って見せるから。だから、どうか君は笑っていて欲しい。俺は君の笑顔が大好きだから。












____________________瀬をはやみ 岩にせかるる滝川の 

われても末に 逢わむとぞ思ふ








20200730

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