ラララ存在証明 | ナノ

  つないで、想って、愛した日。



※幼児化ネタ




「………?」

重い目蓋をこじ開けると、視界に広がったのは見慣れた天井で。此処が蝶屋敷だと言うことを認識するのに、そう時間はかからなかった。なぜ此処にいるのだろうか、此処にいると言うことは何処か怪我をしたからなのだろうけど…。そんなことを思いながら、ゆっくりと上半身を起こした。何故だか体がすごく軽く感じて、首を捻る。ふと視線を落とすと、見えた自分の手のひらがあまりにも小さくて、ひゅっと息を飲んだ。

「え、」
「薫!、大丈夫な、の………薫?」
「あらあら、時透君。そんなに焦らなくても、現段階では命に別条はありませんよ。」

駆け込んできた無一郎の瞳に映る私は、あまりにも幼かった。

「む、いちろ…?」
「こんにちは、薫ちゃん。記憶に問題はなさそうですねぇ」
「え、何、どうなってんの?」

ポカーンっと同じ様な表情をした私たちを見たしのぶさんが、クスクスと笑みを漏らした。この状況を理解している人は、この場でただ1人。説明を求める様に、彼女をじっと見つめると、ゆっくりと再び口を開いた。

「簡単に言うと、血鬼術ですよ。身体が縮んでしまっているんです。」

今現在、解毒剤を作るべく奮闘していると言う。いつまで、この状況が続いてしまうのか、わからないとのことだった。対峙した鬼は、どうしたのかと言う問いに答えることが出来ず、代わりにズキンズキンと頭が痛み始めてこめかみを抑えた。

「薫っ!胡蝶さん!」
「落ち着いてください。血鬼術が解けないところを見る限り、その鬼を対峙できていないのでしょう。厄介なのは、その身体です。私が昨日診た時よりも縮んでいる様に思います。」
「それは、つまり…?」
「解毒剤を早く作り出すか、その鬼を対峙するかしないと、赤ん坊にまでなってしまい、最悪の場合、消えてしまう可能性があると言うことです。」

そんな、と絶望に満ちた想いが言葉と共に流れ出た。今のこの体で、私は戦えるのだろうか。せめて鬼の特徴を思い出さなければ、そう思って口を開こうとした時、無一郎が私の頭を優しく撫でた。

「僕が行く。」
「そう言うと思っていましたよ。なので、お館様にはもう話は通してあります。」
「柱である薫がこんな状態になってしまったんだ。その鬼は、十二鬼月の可能性が高い。だったら、柱である俺が行くべきだ。」
「お供しますよ時透君。どんな鬼か分かれば、解毒剤を作るのも簡単です。」

薫ちゃんは大人しく寝ていてくださいね、とにっこり微笑まれた。何だか申し訳ない気持ちでいっぱいである。

「ちょっと、」
「?」
「その身体で、その顔するのやめてくれない?」
「え、」

ふんわりと無一郎の匂いが鼻をかすめたかと思えば、優しい温もりに包み込まれる。

「ちっさ、」
「………幼くなってるんだから、当たり前でしょ。」
「懐かしいな。10歳くらい?」
「た、多分?と言うか、無一郎…しのぶさんがいるんだから、やめてよ。」
「そんな顔をした薫が悪いんだよ。」

だからどんな顔だと顔を上げて睨みつければ、ばちんっと鋭い痛みが額に走る。

「ふふ、良い子で待っててね、薫」

ちゅ、と額に生暖かい感触が触れた。

「あらあら、まあまあ。薫ちゃんのお世話はとある方に頼んでいますから、何か異変があれば、その方に伝えてくださいね。では、行きますよ時透君。」
「はい。」






















とある方とは誰だ、と呑気に考えていた私がバカだった。てっきり、蝶屋敷の女の子たちか、アオイさんかななんて思っていたのに。私の目の前にはネチネチと嫌みを漏らす伊黒さんと、私を抱き上げキャッキャと騒ぐ蜜璃さんがいる。

「きゃー!可愛いわあ!小さい頃の薫ちゃんは、こんな感じだったのね!無一郎君が夢中になるのもわかる気がするわ。」
「み、みつりしゃん、はじゅかしいれす」

夕刻には、舌ったらずになってしまうくらい年齢が幼くなってしまっていて、しのぶさんの言葉もあり、恐怖で頭が埋め尽くされそうになっていた。それに加えて、元師範である伊黒さんのお説教が延々と続いている。いろんな想いが胸からこみ上げてきて、我慢の糸が解けてしまいそうだ。

「………ごめんなしゃい、しはん」
「俺はもうお前の師範ではないが?柱に上がる前にあれ程言ってきたはずだが、やはりお前はまだまだ未熟だな。」
「っ、」
「あー!もう!伊黒さん!よしよし薫ちゃん、伊黒さんはすごくすごく心配してくれてるだけなのよ。」

とうとう我慢できなくなって、瞳から滴がポロポロとこぼれ落ちる。そう言えば、昔の私はすごく泣き虫で、よく有一郎君に怒られていたっけ。伊黒さんは、少し有一郎君に似ている気がする。ネチネチ、トゲトゲした言葉の裏に、何倍もの優しさが隠されている人だ。

「分かってましゅ…だから、つぐこになりたかった。いぐろしゃんはとてもやさしくて、きびしい人だから。」
「フン…。」
「そうよねえ!ごめんなさいね!邪魔したら悪いから、私、夕餉の支度でもしてくるわね!」

足元がおぼつかない私を伊黒さんに押し付けた蜜璃さんに、台所の場所を問われ場所を指し示した。私を抱き上げる伊黒さんの顔を盗み見れば、心なしか嬉しそうな顔をしている。多分、蜜璃さんの手料理が食べれるのが嬉しいのだろう。

「癸の隊士2名に怪我1つ無かったそうだな。」
「………え?」
「お前が引き連れていたと胡蝶から聞いたが。柱であれば、下の者を守るのは当たり前だと教えたはずだ。良くやった。」
「いぐろしゃん…」
「あの場に、俺が居ればな。」
「?」
「巣立っていったとしても、1度師の立場となった時点で、お前に対する想いは、いつまでも変わらん。」

ぽむぽむ、と優しく背中を叩かれた。顔を上げて、その瞳を覗き込めば、とても優しい色をしていた。

「案ずるな。もう時期元通りになる。せいぜい、束の間の休息だと思って楽しんでいろ。この馬鹿弟子。」

言葉とは裏腹に、私の背を撫でる手はどこまでも優しくて。今までもこれからも、この人についてきて本当に良かったと思った。戦法も、心も、強くしてくれたのは、伊黒さんだから。重くなってきた目蓋に抗うことができずに、それをそのまま受け入れた。次に目を開けたときに広がるのは、大好きな仲間に囲まれて笑う私だろう。







20200728

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