ラララ存在証明 | ナノ

  最期の約束は墓場まで



______なんでお前なんかが生きているんだ。
______どうして、助けてくれなかったんだい薫。
______樋野さん、俺、もっと生きたかった

違うよ、私は。私は、、、
唸り声を上げながら身動いで、体の向きを変える。

「………?」

そこにあるはずの温かさが感じられなくて、飛び起きた。その途端、左脇腹に痛みが走り、蹲る。ゲホゲホっとむせ混んでいると、その音を聞きつけたのか、私が探していた温もりの主が駆け込んできた。

「薫っ!?…苦しいの?大丈夫?」

慣れた手つきで、私の体勢を直しながら、背中を撫でられる。その温かさに、すごく安心した。

「薫?しっかりして、薫!」
「う、うん…大丈夫だよ…ごめんね無一郎。」

やっとの思いで言葉を紡げば、その声を聞いた無一郎の肩から力が抜けていくのが分かった。先日、医者から危機的状況は脱したと説明があったのにも関わらず、彼はその言葉を何処か鵜呑みにしていない節がある。

「少し嫌な夢を見ていた気がする…」
「夢?」
「う、うん…向こうに行った人たちが私を責め立てるの。なんで助けてくれなかったのって。」
「薫…それは…」
「うん、大丈夫。分かってるよ。」

そんなこと、きっと思ってないよって。だけど、考えてしまうんだ。もし、私にもっと知識があって、もっと力があったらって。そしたら、助けられた命があったんじゃないかって。過ぎ去ってしまったことばかりを嘆いても仕方がないのかもしれないけど。

「今日、止めとく?」

今日は、無一郎と一緒に、みんなに会いにいく日だ。この日のために、無一郎はお花をいっぱい買ってきてくれて、途中で私がしんどくなっても大丈夫なように、たくさん準備をしてくれていた。

「ううん、大丈夫だよ。私も、伊黒さんたちに会いたいから。」

みんなのお墓は、軽傷だった人たちによって作られたと聞いている。自分が関わって、愛してきた人たちが、其処にいるって考えたら、いつまでも私は寝ているわけにはいかない。

「…無理してないよね?」
「してないってば、無一郎は心配しすぎだよ。」
「薫は、昔から自分のことを大切にしないから心配なんだ。だから、その分、僕たちが見張ろうって兄さんと約束したんだよ。」
「何それ。絶対、無一郎が勝手に決めたんでしょ。」

有一郎君がそんなこと言うとは思えない。

「ふーん、そんなこと言うんだ?」

あ、やばい、と思った時には時すでに遅し。無一郎の顔が、近づいてきて唇と唇が触れた。そして、それはゆっくりと首筋へと移動していく。ぢゅううう…といやらしい音が響いたかと思えば、鋭い痛みが走った。案の定、そこは赤く腫れ上がっている。

「ちょっと、」
「薫が悪いんだよ。なんで君って、そんなに鈍感なんだろうね?いや、鈍感を通り越してバカなの?」
「なっ、」
「ほら、早く着替えなよ。ああ、手伝って欲しいの?それなら、そうだと言えばいいのに。可愛いなあ薫は。」
「で、」
「で?」

クスクスと笑い転げる無一郎を見ていると、だんだんと羞恥心が湧き起こり、私の持てる力で、彼の体を突き飛ばした。もちろん、力の差は歴然なので、びくともしなかったけれど。

「出て行って!!」

彼の瞳に、顔を赤くさせているであろう私が映る。無一郎は、満足したのかそのまま部屋から出て行った。

「全くもう!意地悪な部分は有一郎君そっくり!」

まるで、共に大人になっていくようだ。有一郎君君を知る人なんて、この世には、もう私と無一郎くらいしかいないから、誰かに同意を求めても無駄なのだろうけど。怒りを胸にしまいつつ、寝具を脱いで、無一郎が持ってきてくれた服に袖を通した。

「薫ー。」
「ちょ、ま、まだ、良いって言ってないよ!」
「何を今更。鈍臭いからどうしたのかと思って覗いただけでしょ。」

しれっと悪びれもなく顔を出した無一郎は、にやりと笑うと、んべっと舌を出した。

「どうもしてない!わあっ!?」
「………!何やってんの。」

そう言えば、私は左足を無くしていたんだった。うまく立ち上がれなくて、顔面から転けそうになったのを無一郎に支えられて思い出した。

「ねえ、まさか自分の足がなくなってることを忘れてたなんて言わないよね?」
「………」
「自分の体のことは、自分が1番よく分かってるって豪語してたのは、何処の誰だったかな。」
「ご、ごめん…だから、それ以上、意地悪言わないでよ…」

柱稽古の時に、無一郎に罵られていた隊士たちは、こんな気持ちだったのだろうか。あの時、助けてあげられなくて、申し訳なかったと心から思った。

「!………薫が、出来もしない癖に、何でも1人でやろうとするからでしょ。」
「赤ちゃんじゃないんだから、着替えとかは流石に1人で出来るよ。」
「うるさいなあ、心配なんだよ分からない?薫が意識を失っていた2週間も、薫の看病をし続けた毎日も、このまま消えちゃうんじゃないかって思ってたんだよ。荒々しい呼吸も、熱に魘される姿を見て何度も代わってあげたいって。なのに、薫は説得力のない顔して大丈夫大丈夫って言うから!」
「はい、すみません…」
「危機的状況を脱したと言っても、肺は半分なくなってるし、左足もないんだよ。他の人よりも感染症に罹りやすい状態になってるし、怪我だってしやすい。医者もそう言ってたでしょ。聞いてなかったの?」

ヒョイっと抱き上げられて、小言を続けながらも、無一郎は私を車椅子に乗せた。無一郎は、給料をほとんど使わずに貯金に回していたようで、それでこの車椅子を買ったのだと聞かされた時は、卒倒しそうになった。無一郎が頑張って稼いだお金を、全て私に使っているように思えて、すごく申し訳なくなる。

「ちょっと、薫聞いてるの。」
「ごめんね私なんかのせいで、」
「本当に馬鹿なの?」
「は、」

マスクを手渡されて、何も言わずにそれを装着する。まだ寒いからと、膝掛けを掛けられた。そして、厚手の羽織を肩に掛けられる。

「手、膝に置いてて。」
「はい…」

玄関の扉を開けると、肌寒い空気が中に入り込んできた。無一郎は、私の後ろに回り込んで、車椅子を押してくれる。

「昔から、いっつも自分を卑下してばかりだよね、薫は。言ったでしょ。薫は、ここで、笑っていてくれたらいいって。」

みんなが眠っているところまでたどり着くと、一緒になって手を合わせた。たくさんの顔が浮かんでは消えて、浮かんでは消えてを繰り返して、自然と涙が流れた。そんな私の涙を優しく拭ってくれるのは、いつだって無一郎で。昔から泣き虫な私を見捨てたりせずに、いつだって側にいてくれたんだなと思い知らされる。そよそよと風が吹いて、それに紛れて、生きるんだよって言う言葉が聞こえてきた気がした。

「僕は、必ず薫を幸せにすると誓います。だから、安心して俺たちのことを見守っていてください。」
「無一郎、」
「大好きだよ、薫」

ふんわりと後ろから、包み込まれて、あぁ幸せだと思った。こんなに幸せで良いのだろうかって不安に思えるくらいに、この日々がとても愛おしくて尊い。私たちに残された時間は、短いかもしれないけれど、みんなに会うその日まで、立派に生きていこう___。









20200709

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