仲人(川西太一)の溜息

夕方の18時。よく飯を食べに行くお店に、賢二郎と待ち合わせをして近況を聞きつつ、各々が頼んだものを味わっていた。横に腰掛けた賢二郎をチラリ、と見つつ、タイミングを見計らって問いかける。

「賢二郎、ちゃんと最上さんに連絡入れてる?」
「…は?」

最上さんが留学に出て1ヶ月。念の為、確認してみると怪訝な顔を向けられる。駄目だ。俺の勘が、そう告げている。

「入れてねえの!?」
「……うるせっ」

ズズッとラーメンを啜る手を止めた賢二郎は、こちらを睨んでくる。だが、そんなことを気にしている場合ではない。

「入れてやれよ」
「……別に用もねえし」
「そういう問題じゃねーって」
「アイツからも来ねえし、忙しいんだとしたら悪いだろ」
「遠距離って、そういう風に疎遠になって、終わりを迎えるんだぞ」

この2人に限って、それはないと思ってはいるけれど。だが、そんな悠長なことを思っていたせいで、知らない間に最上さんはストーカーに遭っていたし、喧嘩もしてしまっていた。別れるまではいかないとは思うが、こういう風に変に拗らせて、この2人は喧嘩をするんだ。俺には分かる。なぜかって?この2人に関しては、俺は1番の被害者だからだ。異論は認めない。

「なら、聞くけど、なんて送れば良いんだよ」

ムスッとした顔で、それでも、連絡を取ろうと考え込む賢二郎。こう言う顔は最上さんじゃないと引き出せないだろう。本当に、ここまで女に入れ込む賢二郎は凄い。昔から、懐に入れた人間や尊敬する人間に対しては真っ直ぐな男だ。ただ、不器用なのが難点なんだけど。

「元気?とか?」
「元気じゃなかったら、どうするんだよ」
「じゃあ、大丈夫?とか慣れた?とか…」
「大丈夫じゃなかったら、どうするんだよ。つーか、1ヶ月で慣れるわけねえだろ」
「………」
「何だよ」

いや、コイツめんどくさいな。と。口が裂けても言えないけれど、高校時代から、本当に不器用な奴だ。

「じゃあ、最近どう?とかは?」
「………」

我ながら良い案なのでは。この問いなら、大丈夫じゃなかったら大丈夫じゃないって言えるだろう。最上さんなら、多分。

「……分かった」

渋々といった様子でスマホを取り出した賢二郎。時間を確認した後、数を数えるように、指先を1つずつ折っていく。恐らく、時差の計算をしているのだろう。最上さんのいるカナダのバンクーバーと俺たちのいる東京とでは、時差が−17時間ある。向こうは、

「……帰ってからする」
「ウン、その方が良いかもね」

恐らく深夜なのだろう。計算が苦手な俺は、正式な時間を出せていないが、この様子を見る限り、そうなのだろう。

「まあ、その…さんきゅ」
「えっ」
「なんだよ?」
「い、いや?もしかして、何か悩んでた?」

余計なお世話を焼いた俺に、賢二郎がお礼を言ってくるなんて思わなかった。ギョッとして顔を覗き込む。先程よりも、更に眉間に皺を寄せた賢二郎がいた。イヤな予感は当たるものかもしれない。

「……電話していい?って連絡が来てたんだけど、今は無理って返事してから、連絡が返って来てなかった」
「……なんでそれを先に言ってくんないのかな?賢二郎くん?」
「うるせえ」
「えー…。絶対それ、何か相談あったんじゃねえの?」
「そう思って、後から電話できそうな日を提案した」
「最上さんの都合がつかなかったと?」
「ああ。また、連絡するって返信が来てたけど、それ以降来てねえ」

グイっと一気にお冷やを飲み干す。それは、冷えた身体を更に冷たくしていった。拗らせないようにと声を掛けたのだが、既にこの2人は拗らせてしまっていた。全くもって笑えない。

「それって、どれくらい前?」
「……1週間前ぐらいか?」

ほお。なんだかんだ、1週間前までは連絡取り合っていたのか。賢二郎にしては、珍しい。俺は、今の今まで全く連絡してないと思っていたのだけど、賢二郎も最上さん相手だと、こんな風になるのか。

「ちゃんと彼氏してんだな」
「……はあ?いや、するだろ連絡ぐらい」
「俺に対してマメに連絡しない奴が、何言ってんだか」
「太一と菫を一緒にするわけねえだろ」
「ひでえ」

でも、こんな状況ならば、[最近どう?]と連絡するのは不味いのではないか。そんな考えが浮かんできた。

「それなら、最近どう?って聞かない方が良いかもな」
「……お前が言ったんだろ」
「いや、だってね?そんなになってるなんて、俺知らなかったし」
「……そうだったな」
「げっ、実は相当参ってたんだろ?」
「うるせえ」

今度は賢二郎が、お冷やをグイッと一気飲みした。こりゃ、酒を飲まなくて正解だったかもしれないな、と人知れずに思う。空になったコップに、どーどーとお冷やを注いでやると、容赦ないデコピンが降ってきた。

「痛っ」

仕舞いには貧乏揺すりまではじめた賢二郎に苦笑を漏らしながらも、宥めてやる。

「もういっそのこと、今夜電話かけてやれば?」
「……起きてなかったらどうすんだよ」
「モーニングコールなんて最高じゃん?」

いや、女の子側の気持ちは分からないけれど、俺は嬉しい。彼女からのモーニングコールとか最高じゃねえの?彼女の声を聞いて目覚めるんだろ?ご褒美じゃね?最上さんも賢二郎の声聞いて起きれるとか、きっと、

「寝起きの不機嫌な声聞かれるとか最悪じゃね?」
「賢二郎は寝起き悪いもんな」
「てめー、そろそろぶっ飛ばすぞ」
「ごめんごめん、冗談冗談」

なんでも良いから、さっさと仲直りしてくれ。マジで。






20210313







×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -