こちら、川西太一です。

俺の中で、もう習慣化されてきた賢二郎の彼女のボディーガードと言う名のボランティア。それが、もうすぐ終ろうとしていることに真っ先に気づいたのは、俺だと思う。最上さんの通う音大の前で、彼女が出てくるのを待っていると、彼女の親友という子に少し時間がかかると教えてもらった。

「あー、それは大丈夫なやつ?」

最上さんは、美人である。もしかして、告白とかではないかという疑念が生まれた。

「うん。教授に呼ばれてるの。多分、大事な話をしてるよ」
「大事な話?」
「留学とか、かな」

へえ、と目を細めた。目の前の最上さんの友人…ポンちゃんさんも嬉しそうにしている。出会ったときから、最上さんはピアニストになることを夢見ていた。海外で経験を積むのは、彼女にとって良い方向へと歩が進むことだろう。

「本人は、複雑そうだったけどね?」
「あー、賢二郎?」
「うん」
「うーん、まあ、大丈夫だと思うよ」
「そっか。川西くんがそう言うならそうなのかな」

こっちは何年も、あいつらの橋渡しをしている。その俺が言うんだから間違いない。確かに賢二郎はモテる。だが、アイツは浮気をするようなタイプではない。そもそも、賢二郎のお眼鏡に叶う女が少ないのだ。なんたって、アイツは理想が高いのである。

「最上さんに、出会ってなかったら分かんないけどね」







数時間後。浮かない顔で校門までやってきた最上さん。その表情は高校時代に賢二郎のことで悩んでいた顔に、よく似ていた。相変わらずのネガティブを発動してしまっているらしい。

「浮かない顔してんね?」
「…うん、ちょっと」
「留学行くの?」

確信めいた問いを投げかけると、一瞬だけ驚いた顔をされるが、その後すぐに悟った顔になる。大方、友人が口を滑られたとでも思っているのだろう。昔から思っていたけれど、こう言うところは分かりやすい。

「行きたいと、思ってる…けど、」
「賢二郎?」
「と言うか私が駄目と言うか…」
「あー、不安?」
「いや、その…賢二郎がいないとピアノが弾けない時があると言うか…」

最上さんは高2の頃、精神的に何かあったらしく一時期ピアノが弾けなかった。今もその衝動は残っているらしい。そんな話全く聞いてなかったので、驚きだ。賢二郎にそんなことを指摘すれば、どうせ「言う必要なんかないだろ」と言われるだろうけども。

「賢二郎が居れば弾けるの?」
「う、……その、まあ。自己暗示というか、おまじないのようなことをですね、」
「へー」
「賢二郎には言わないでね?」
「りょーかい」

今まで、最上さんの方が賢二郎を支えているイメージが強かったけど、この2人はそれだけではなかったようだ。

「それに、賢二郎は、浮気するぐらいなら別れるって言うでしょ?だから、遠距離になって、賢二郎の心が離れていっちゃったら、私がその程度の女だったってことだと思う」
「………」
「川西くん?」
「いや、なんかすごいなと思って」

そんだけ、お互いのことを理解し合える関係が純粋に羨ましい。

「んふふ。でも、川西くん。賢二郎のことお願いね?」

__虫除けしてね

俺は虫除けには、ならないと思うけど。







「けんじろー」
「あ?その言い方やめろ」
「なんで!?」
「天童さんみたいだから」
「ああ…」

この場に、天童さんもしくは、その代の誰かがいたらうるさいだろうな。特に瀬見さん。

「で?なに?」
「最上さんのことだけど、話聞いてあげてね」
「は?」

どういう意味だ?と凄まれる。

「なに?アイツ、なんかあった?」

守るために、これだけそばにいるのに。

「いやー、その辺は大丈夫。違う問題」
「違う問題?」
「相談するって言ってたから、そろそろ言われると思う」
「……なんでお前が先に知ってるんだよ」
「不可抗力。ポンちゃんさん」
「ああ」

いや、それで納得するのかよ。毎回思うけど、コイツの理解力の速さには頭上がんねーわ。

「俺、お前らの結婚式に参加するのが夢だから」
「小せえ夢だな」
「いや、マジで」

君たち、誰のおかげで、ここまで続いてると思ってんの。それにしても、遠距離恋愛かあ…。他の人間なら、胸騒ぎがするだろうけど、なんかこの2人だと大丈夫だと思えてしまうんだよなぁ。その勘は、外れることはなかった。






20210209




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