繰る切片

「おねえちゃんって菅原先生とお友達だったんだね」

その夜。久しぶりに夕飯を一緒に食べていると、楓のそんな言葉に咽せた。

「な、なんで知ってるの?」
「菅原先生が言ってた。高校が同じだったって」
「へ、へえ…」
「私が小さい頃に1回会ったこともあるって言ってたよ。ほんと?」

コラ菅原!生徒になんてこと話してるんだ。確かに楓と菅原は1度会ったことがある。楓は幼稚園児だったので、1度会っただけでは覚えていない様子だ。

「もしかして、付き合ってるの?」
「ブーッ」
「わっ、汚な!?」

含んでいたお茶を盛大に吹き出した。最近の小学生はマセているとは言うけれど、ここまで鋭いとは思わなかった。楓は、まだ4年生だというのに、そういうことに興味津々らしい。

「付き合ってないよ。っていうか、楓。菅原先生に余計なこと言わないでね」
「言わないよー。どっちかというと聞いてくるのは先生だよ?」
「例えば?」
「お姉ちゃんって彼氏いるの?とか」

おい菅原!アンタ、職権乱用して私のプライベートを妹に聞いてるんじゃないよ!目の前に居ない元彼を恨めしく思う。

「あと、連絡くれないーって言ってたよ。喧嘩してるの?」
「してないよ…」

もうその言葉にため息も出てこなかった。これは、抗議しなければならないだろう。

「あ、そうそう。これ、学校からの手紙」

思い出したかのように立ち上がった楓は、ランドセルからプリントを取り出した。そのプリントには[授業参観のお知らせ]と書かれている。

「授業参観…」
「うん…来れそう?」

日付を確認して手が止まった。来月の希望休は、まだ出してない。

「6月13日の日曜日か…。休みが取れたら、行ける、けど…」

その前に、その日は菅原の誕生日だ。







翌日。

(別にただ抗議するだけ…抗議するだけ…抗議するだけ…)

楓は、今日は友達と遊びに行く約束をしていると言っていたので、手土産のお菓子を持たせて見送った。今は、自宅に1人。今日は土曜日なので、小学校の先生も多分休みだろう。教師には日直というものがあるらしく、土日でも学校に行かないと行けない日が存在すると聞いたことがあるけど、そんなことは私には関係ないと言い聞かせる。悪いのは私ではなく菅原なのだから、と電話をかけようとしたところで手が止まる。

__俺の番号、変わってないから、何かあったら連絡して

(連 絡 先 消 し て た !)

それを思い出して仕方なく、まず潔子に連絡して菅原の連絡先を聞くと、すぐに教えて貰えた。

[後で話聞かせて]

というメッセージ付きで。もうどうにでもなれ!!と発信する。発信音が聞こえる中、なかなか応答はされない。何度目かのコール音の後、

『……はい、もしもし!?』

恐る恐るといった感じで、出てくれた。

「菅原、」
『桜?え?!な、なに?なにかあった?大丈夫!?』

物凄く心配してくれているのが、電話口からだけでも分かって閉口した。それでいて、どことなく嬉しそうなのだ。抗議しようと思っていたのに、菅原の声を聞くと、やっぱり私は駄目になる。

「菅原の馬鹿」
『いきなり悪口かよ…!?』
「楓に余計なこと言わないで」
『ああ、それで連絡して来たのか』
「どう言う話をしてたら、私に彼氏がいるとか聞くようなことになるの…」
『それは、楓さんが桜の自慢をしてきたから』
「自慢?」

__私のお姉ちゃんは、優しくて美人で料理上手なんです!良いでしょう!
__そんなに素敵な人なら、男が放っておかないだろうなー。彼氏の1人や2人いたりしてな?
__お姉ちゃんの1番は私だからいませーん!!

「2人いたら問題でしょ…というか、生徒となんて話をしてるの…」

生憎、菅原と別れてから彼氏を作る余裕なんてなかったから、今も彼氏なんていない。そんなこと口が裂けても言えないけれど、その思いも込めて深くため息を吐いた。

『で…?桜は今、彼氏いないの?』
「いないって楓から聞いたんでしょ」
『俺は桜から聞きたいんだけど?』

なんで、そんなにこだわるのだ。これでは、今も私のことを想っているみたいじゃないか。

「……いないよ」
『そっか。なあ、また連絡して良い?』
「なんで?」
『えー…桜と話したいから!』

やっぱり電話しなければ良かったと後悔した。失った時間は、取り戻せないし取り戻したいとも思わないのに。

__お父さんなんて地獄に落ちればいい!!
__お父さんのせいで、私の人生めちゃくちゃなんだよ!!

『……桜?』

__すまないな…でも、大事な娘だと思ってる…。すまない、桜。
__あの人を返しなさいよ!!なんで、あんなこと言ったの?
__うるさいっ!!あんな人、私のお父さんなんかじゃない!!男狩りもいい加減にしてよ

「どうせ参観日で会えるでしょ」

投げやりにそう言って、電話を切った。



20210115



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