__最近、自慢のお姉ちゃんが更に可愛くなった。

その話をお友達のお母さんにしたときに、「それはお姉さん、恋をしてるのかしらね?」と笑っていた。"恋"。私は、まだ分からないけど、お友達に借りた漫画たちに出てくる主人公達は、恋をすると、更に魅力的になっている。だから、お姉ちゃんもそうなのかなって、こっそり観察していた。

「桜!」

お姉ちゃんが具合が悪くなったとき、駆けつけてくれたのは私の担任の先生。お姉ちゃんのお友達の潔子ちゃんから聞いた話では、2人は高校時代の同級生らしい。菅原先生は、お姉ちゃんの前だと偶に、見たこともないような優しい顔をする。生徒の私たちに見せる優しい顔とは別の顔。それを初めて見たとき、菅原先生にとってお姉ちゃんは、とても大事な存在なんだなって思った。もしかしたら、その気持ちは、私よりも強いのかもしれない。そう思うと悲しくなる。

「菅原先生」
「ん?なんだ?楓さん」
「前に私が、お姉ちゃんのことは誰が守ってくれるんだろうって言ったの覚えてますか?」

いつも強くあろうとするお姉ちゃんは、私に弱いところを見せてくれない。見せてくれたところで、私に出来る事なんて何も無いんだと思う。子供の自分が、とても嫌になる。早く大人になりたいって何度も思った。だけど、菅原先生に出会って、私は私のままでも良いんだと思えるようになった。変に聞き分けが良くなっても、お姉ちゃんは喜んでくれないんだって。

「大丈夫だよ、楓さん。お姉さんのことは俺が守るから」

言わなくても、私の想いに気がついてくれる菅原先生のことが、大好きだ。

「でもな、楓さん。盗ったりしないからな?」
「え?」
「俺も楓さんも、桜の"1番"だべ」

この1番の意味が分からなかった。1番が2人いたら、それは1番じゃないんじゃないかなって。お姉ちゃんにとって必要なのは、菅原先生みたいに守ってくれる人だ。そう思えば思うほど、さみしくなった。だけど、さみしいって言えばお姉ちゃんが困ってしまう。そんな想いを埋めるように、お父さんに会いに行った。

「楓か?」
「はじめまして、お父さん」
「桜は一緒じゃないのか?」
「………」
「まさか、1人で来たのか!?」

お父さんは一瞬だけ怒ったようになった後、私の髪を撫でて「会えたのは嬉しいよ」と言った。お父さんもお姉ちゃんに会いたかったのかな。でも、お父さんはお姉ちゃんの本当のお父さんじゃないのにな。此処でも私はいらないのかな。いろんな想いがあって悲しくなる。なんて言っていいか分からない私の事なんて見向きもせず、お父さんは叔父さんに電話をかけはじめた。

「とりあえず、今日はお父さんの家に泊まりなさい。明日の朝、新幹線で帰れるな?」

焦ったような顔をしたお父さんに腕を引かれて、お父さんの家に向かう。そこに辿り着いたときに、更に心の中はどん底になった。お父さんの隣には、お腹を大きくしたキレイな女の人がいたから。生まれてくる子供は、腹違いの姉弟になると言われたときに頭を過ぎったのは、お姉ちゃんの顔だった。







色んな真実を飲み込めずに、宮城に帰って来たとき、優しく出迎えてくれたのはお姉ちゃんだった。お姉ちゃんは、いつだって優しい。泣き虫な私に、「大丈夫だよ、お姉ちゃんがついてるよ」って言ってくれる。だけど、

「楓さん、行き先も言わずに、いなくなったらダメだべ」

そんな私たちの中に、ゆっくりと入って来た先生が、叱ってくれた。叱られたのに、私は嬉しいと思ってしまった。もしかしたら私は、こうやって誰かに怒られたいと思っていたのかもしれない。

「コミュニケーションが足りなすぎだべ」

菅原先生は、私だけじゃなくてお姉ちゃんのことも怒った。私は、なんだかお母さんに怒られている気分になって、すごく懐かしく感じた。怒られるのは好きじゃないのに。

「お姉ちゃん、ごめんなさい。お姉ちゃん、大好き。これからも一緒にいてください!」

菅原先生のことも大好きだと思ったけれど、その気持ちは2人に抱きついて誤魔化した。私には、この2人がいてくれたら、きっと幸せなんだ。







「楓さん、卒業おめでとう」

菅原先生と出会った春を数回繰り返して、私はまた1つ大人の階段を上る。

「んふふっ。ありがとうございます。菅原先生も、ご結婚おめでとうございます」

春は、お姉ちゃんが1番好きな季節らしい。何故かは分からないけれど、きっと目の前のこの人が関係しているんだろうな。そう思うと、なんだかニヤけてしまう。

「中学でも、バレーやるんだよな?」
「はい。バレーもですけど、もちろんお勉強も頑張りますよ」
「楓さんは桜に似て、頭良いからなー。白鳥沢に行ったりしたら、更に自慢の妹になるだろうなー」
「気が早いですよ、もう!」

高校はどうするの?なんて、これから中学に上がる人間に普通は言わないと思う。

「お姉ちゃんは、怪我でバレーが出来なくなったから、私はそんなことないようにしたいです」

多分、それが1番お姉ちゃんが傷つくと思うから。バレーボール選手になりたいとは思わないけれど、バレーボールは、きっと大好きなまま生きていくのだと思う。だって、私の大好きな2人が1番愛しているスポーツだから。

「そうだなー、マネージャーも良いけどな!でも、楓さん桜に似て美人になるだろうからなー。うちの妹は、まだやらん!よし!楓さんは、最低でも後6年間は選手として頑張るんだぞ!」
「なんですか、それ!」

口を尖らせた菅原先生がケラケラと笑う。卒業証書を胸に、校門をくぐるとお姉ちゃんが待っていた。2人でお姉ちゃんの元に駆け寄る。その瞬間、私はにっこりと笑った。ようやく、この2人に言える。

「お姉ちゃん、"お兄ちゃん"!結婚おめでとう!私ね、世界で1番2人のことが大好きだよ!!」

大粒の涙を流すお姉ちゃんを、優しく抱きしめるお兄ちゃん。この2人に自慢の妹だと、ずっと言って貰えるように、絶対立派な大人になります!!


20210324





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