私の泣きはらした顔を見た親戚が、安心したような顔をしているのが、酷く気持ち悪かった。


忌引きで、結局1週間学校を休んだ。コンクールまで、後2週間しかない。だけど、私は心にポッカリと穴の空いたような気分で、こんな状態で行っても迷惑かけるだけだろうと思った。結局、部屋に閉じこもるようになってしまい、母親が心配そうに声をかけてくる。

弟は、既に立ち直ったのか、学校に行き始めている。あの子よりも、うんと大きな私が、こんな状態でどうするのだろうか。友人達から、心配のメッセージがたくさん入っていた。それに返事をしなければと思うのに、結局出来ずに布団に潜り込む。

次の日を月曜日に控えた日曜日。私の家に友人が訪ねてきたと言われた。大方、みっちゃんあたりだろうと思って、部屋に通しても良いよと母親に告げると、部屋に入ってきたのは、北くんだった。

「……え、な、なんで」
「教えてもろてん、灰野さん家」

それをしたのは、たった1人。ニコニコと微笑んでいる親友の顔が浮かび上がってくる。

「ごめん。体育祭も近いのに、幹部が行けてないなんて」
「かまへん。みんなで、なんとかしとる」

私が、いなくたって、世界は回るのだ。

「……そう、だよね。私がいなくたって、なんとかなるよね」
「は?」
「私なんて、いないほうがよかったのに」
「何言うてんのや。なんで、そんなことになるんや」

叱るような物言いで、両肩を掴まれた。顔を上げれば、北くんの真っ直ぐな瞳がある。それを視界に入れた途端、逃げられない気持ちになった。ドロドロとした感情を、全て、曝け出してしまいたいと思った。感情を爆発して、めちゃくちゃに壊してくれたら良い。

「だって、わたしなんて!!わたしが、いないほうがよかったのに!!」
「落ち着けや。そんな訳ないやろ」
「……北くっ、」

グイッと腕を引かれて、北くんの胸の中に閉じ込められる。ドロドロとした感情に支配された視界が、クリアになっていくような感覚がした。力強く抱きしめられた腕が、大丈夫やと支えてくれているような感覚がする。

「親父さんのことは残念やったけど、灰野さんがおらん方が良いわけない」

混み上がってきた熱い想いが、やがて雫となって、ポロポロと流れ落ちていく。それは、北くんの胸元を濡らしていって、それが申し訳なくて、トントンと胸元を押した。

「北くん…服が濡れるから…」
「別にかまん」
「…そんな、申し訳ない」
「そう思うんなら泣き止み。せやないと離さんで」
「………」

男の人の力には敵わないから、そのまま、北くんの腕の中に閉じ込められたままになる。早く止めてしまいたいのに、止めたいと思えば思うほど、涙は量を増していく。どうしたら良いか分からなくて、結局、その背に縋り付いてしまう私は、弱い人間だ。

「ごめん…」
「謝るならこっちやろ。不躾な真似しとんやから。何も悪ないのに謝るんは、灰野さんのあかんとこやで」
「……ごめん」
「また謝った」

トントンと一定のリズムを刻みながら、宥めるように背中を叩かれる。それが、少し心地よく感じて、しばらく身体を預けてみた。身体の震えが止まった頃、顔を覗かれる。止めどなく流れ落ちる雫を、困った顔をして拭われた。

「でっかいの溜め込んどるやろ」
「………!」
「言うてみィ」
「別に、」
「別にやあらへん」

顔を上げれば、当然のように再び目が合う。いつだってやさしくて、何かを見透かすこの瞳が好きだけど苦手だと思った。

「……信じられないかもしれないよ」
「そんなん話してみんとわからんやろ」
「私のこと、嫌いになるかもしれないよ」
「それはないやろ。人を好きになるって、生半可な気持ちやないんやで」
「気持ち悪いって思うかもしれないよ」
「思わへん。大丈夫や」
「聞いたら後悔するか「瑛」も、」

突然、下の名前で呼ばれて目を見開いた。やさしく背中を撫でる手も、私の言葉に返してくれる声も、その全てが、どこまでもやさしくて、あたたかい。

「なに聞いても、離してやらんから言うてみ?」
「、きたくん…」

再びその背中に腕を回して、ぎゅーっと抱きついた。はじめて、話してみたいと思えた人。この人に突き放されたら、どうしようもないかもしれないけれど、そうなったら消えてしまえば良いのかな。そんな悪い考えを秘めて、意を決するように口を開いた。

「ねえ、北くんは前世って信じる?」
「それ前も聞かれたことあるやつやんな?」
「私ね…前世の記憶があるの」

とうとう零れ落ちた言葉を、君は余すこと無く掬ってくれますか?



20201222




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