賢ニ郎に頼まれたので、喚く後輩たちを宥めながら片付けを終わらせた。鍵閉めは俺がやっておくと伝えて、他の部員たち先に帰らせる。

「ワリ、助かった」
「早かったな」
「寮の門限あるし、送って行けねーだろ」
「まあ、そうなんだけどさ」

何処となく機嫌が良さそうで、ほっと一息吐く。

「…で?」
「…で、ってなんだよ」
「俺は聞く権利があると思いまーす」

体育館の鍵を閉めて、2人並んで更衣室まで急ぐ。

「部屋戻ったらな」

寮の門限まで、あと10分ほど。ゆったりと話している暇はなさそうだ。意外にも話はしてくれるらしい。それぐらい追い込まれているんだろうか。あの白布賢二郎ともあろう男が。

更衣室で急いで着替えた後、小走りで寮へと急いだ。その間特に何か会話は繰り広げられていない。部屋のドアを開けて荷物を置いた途端、賢二郎の顔を見つめると、観念したのか溜息を吐かれる。

「お前が思ってるようなことは何もねーよ、マジで」
「その割には機嫌良さそうじゃん?」

そう指摘してやると、分かりやすく言葉を詰まらせる。まあ、この様子から良いことがあったのは明らかだ。

「キスでもした?」
「してねーよ」
「マジで??なら、なんでそんな機嫌良いの?」

逃すものかと顔を除けば、怪訝な顔をされる。眉間に刻まれた皺は、それはそれは深いものだった。だが、観念したのか口を開いてくれる。

「あいつから頼られんの、はじめてに近いんだよ」
「えっ」
「弱音吐いたところなんて、見たこと無いっつの」
「………」
「なんだよ」
「いや、よく付き合ってるな、と」

そもそも、なんであんなに最上さんは拗らせてるんだ?明らかにこの2人は両思いなはずなんだけど、俺の勘違いか?

「うっせ」
「もうこりゃ、賢二郎が愛の告白をもう1度するしかねえんじゃね?」
「は?」
「それから、抱きしめてやったりとか、スキンシップをだな…」
「っはあ!!?」

俺の言葉に今日1番の素っ頓狂な声を上げた賢二郎は、耳まで真っ赤にしている。前言撤回。拗らせてるのは、最上さんだけではなかったようだ。

「菫は、俺のこと何とも思ってねーんだよ。そんな奴からされてみろ。嫌われるぞ」
「最上さんは、好きでもないような男と付き合う女には見えないけどね」
「っそれは、俺が虫除けになるっつったからな…」
「あー、ハイハイ…」

これは最上さん側に動いてもらうしかないだろうか。なんでも卒なくこなすように見えて、賢二郎は恋愛においてはかなり不器用らしい。その上、愛情表現もド下手クソ。…あれ?賢二郎に惚れる要素なくね?

「最上さんは、賢二郎の何処が良くて付き合ってるんだろ…」
「お前喧嘩売ってんのか」
「いや、嘘嘘、冗談冗談!!」
「………」

じとり、と見つめられてたじろぐ。目で語るにも程があるだろう!と瀬見さんがよく賢二郎に言っているが、その通りだと思う。

「俺から最上さんに聞いてやろうか?」
「あ?」
「賢二郎のこと、どう思ってんのー?って」
「やめろ、余計拗れるわ」
「ひでえ」

胸ぐらまで掴まれては、もう俺はお手上げである。

「でも、そんな情緒不安定ならチャンスなんじゃねーの?」
「それは俺も思った」
「問題は、どうやってアプローチするか…だな。もうあれじゃね?押してダメなら引いてみれば?」
「……そもそも押してない。それに、今引いたら菫倒れそう」
「確かに」

あんな真っ青な顔で、賢二郎の顔だけ見に来たので呼ばないでなんて言われた時には、どうしたもんかと頭を抱えた。勿論、態度には出さなかったけど。

「五色に感謝だな?」
「っはあ!!?」
「いや、アイツが騒がなかったら、賢二郎は最上さんが来たことに気づかなかっただろ」
「……その場合、俺を呼ばなかった太一が悪い」
「うわあ…」

キリキリと胃が痛み始める。いやいや、本当お前ら早くくっつけよ。もう俺は限界だ。

「とりあえず、なんかしてやれよ」
「うっせえ、言われなくても考えてる」

どうだか。と溜息を吐いた。

「つーか賢二郎…お前に欲はねえの?」
「テメエ、菫で何を想像してんだよ」
「してねーよ!!」

付き合って1年もそういうことをせず、手を繋ぐ止まりな奴らがいてたまるか。

「"正式"に付き合ってねーんだから仕方ないだろ」
「あ、やっぱ欲はあるんだ?」
「そろそろ殴っていいか?」
「…ッゴォ」

ゴスッと肘鉄を喰らわせた後に言うセリフではない。そもそも2人の問題に俺を巻き込むな!!俺の心の叫びは誰にも聞かれることはなかった。



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