「……と言うことなんです、川西くん」
「いや、それを俺に言われても」

休み時間、俺のクラスを訪れた賢二郎の偽彼女(?)こと最上菫さん。てっきり、俺のクラスにいる吹奏楽部の副部長(最上さんの親友)に用事があるのかと思えば、まさかの俺に相談があるとのことだった。

俺は賢二郎から最上さんと"お試し"で付き合っているという話は聞いている。だが、明らかにこの2人は両思いなので、賢二郎が押せば解決するだろうと高を括っていた。で、現に解決しそうな方向にまで足が向いているというのに。というか、絶対賢二郎の頭の中では解決しているに違いない。

「仮にそうだとしても…こんな私が隣にいても、と思って」
「いやいや、なんで?」
「私今、ピアノ弾けないし、この間の期末の結果も良くなかったし…」
「いやいやいや、それで最上さんの魅力が決まるわけではないでしょ?」

想像以上にこの子はネガティブだった。賢二郎が凄いのは認める。猛勉強して白鳥沢に入学して、推薦組を差し置いて強豪バレー部のスタメンになった。だからといって、せっかく賢二郎の気持ちに気づいたのなら、お試しだの何だの言わずに付き合えば良い。いや、既にこの2人は付き合ってんだけど。

「やっぱり間違いなのかな…というか、私たちがお試しというのは内緒にしてほしくて…」
「いや、知ってたけど」
「!?あれ…じゃあ、やっぱりお試しなのか…」
「いやいやいやいや!待って、早まらないで!!?」

こんなこと言ったら、俺、賢二郎に刺されるわ。

「賢二郎の言う"お試し"は最上さんの為だから。最上さんを好きにさせるために"試し"で付き合うって意味。だから、最上さんが、賢二郎のこと好きなら問題ないわけ」

1から丁寧に説明すると、どんどん青ざめていく最上さん。そして、最上さんの話を聞いていく間に、俺はこの2人の関係が分かってきた。

つまり、賢二郎が告白した時から、この2人は両思いなのに、お互いが不器用すぎて想いが分からず空回りの繰り返しだった。そんな時に、ピアノが上手く行かずに精神が不安定になってしまった最上さんが、賢二郎に助けを求めたことで、ようやくつながりそうになっている。

傍から見れば、めちゃくちゃ分かりやすい状況なのに、なぜ、こんなにもこじらせているんだ。俺は頭を抱えた。

「?賢二郎が私のこと好きなのは分かってるんだけど、私の好きは賢二郎に伝わってなかったってこと?」
「そうそう、そういうこと」
「……そこまでは、分かったけど。でも、好き=付き合うではないよね」
「うん??」

なんて???

「とりあえず、この話賢二郎にしてもいい?」
「駄目です…」

だよね。いやいやいやいやいやいや!!まじで知らねーよ!!!!俺を巻き込むなこのバカップルが!!





















「俺もうお前の彼女がよく分からん」
「……はあ?」

寮の部屋に戻ると、同室の賢二郎は勉強していた。勉強の邪魔をしない方が良いかと思ったが、自分の中でのこの消化不良な悩みを聞いて貰わないと気が済まない。賢二郎は当事者の1人だ。この際、最上さんが賢二郎には言うなと言っていたことは、もうどうでも良い。

「いや、今日最上さんに呼ばれてさ、賢二郎のことが好きなんだけど、お試しで付き合ってるんだって言われた」
「……は?それもう解決してんだけど、」
「だよな!お前はそう思ってるよな!!?」

賢二郎の中では、最上さんが言っていた昨日のハグの時点で、マジで付き合ってるってことになってるという俺の推測は間違っていなかったようだ。

「つまり、菫の中では、俺達はまだ"お試し"で付き合ってるって事か?」
「そういうこと」
「意味分かんねー」

賢二郎のその返答に、安堵の息が漏れた。良かった、こっちの考えは正常なようだ。

「他になんか言ってた?あいつ」
「あー…好き=付き合うではないよね、だとよ」
「は?!」

どういうことだよ、と言わんばかりの目で見られるけど、これ以上は俺も知らない。さあ、と肩を窄めた。

「なんか、私は賢二郎に相応しくないとか?」
「……何でお前が決めるんだよ」
「いや!?俺じゃねーよ??最上さんが言ってたんだよ!」
「分かってるっつの!!」

盛大なため息を吐いた賢二郎は頭を抱えていた。そりゃそうだろうな。1年?いや付き合う前もカウントしたら2年も想いを馳せてる女が、未だにこんな考えしてたら、そうなるわな。

「まあ、なんつーか…お前の彼女、めちゃくちゃネガティブなんじゃね?」
「知るか」
「ちなみに、この話は賢二郎にしないでくれとまで言われたからな」
「……知るか」

とか言いつつ、絶対手放さないんだろうから、こいつも相当だよな。



20201204

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