好みのタイプ
「どんな人がタイプかって…?」
どうしてそんなことを聞くの?と目の前にいる同級生や、後輩を眺める。その問いに、みんなを代表したつもりなのか、意気揚々と虎杖くんが手を挙げた。
「いやー、なんとなく?今後の参考に?」
「……私のタイプを聞いたところで、なんの参考にもならないと思うけど」
「おかか!」
「なんで狗巻くんが反応するの?」
「おいおい、梓。それを棘に聞くのかよ。悪い女だなお前ー」
「おかか!」
「あ?フォローしてやってんだろうが!」
ぎゃーぎゃーと騒ぎはじめる2年生を見た1年生たちが冷ややかな視線を向けてくる。どうしたものかと溜息を吐いたタイミングは、伏黒くんと重なった。
「好きなタイプと言われても…私そういうのよく分からないからな…」
「あ、ならこれはどう?2択問題」
「うん?」
野薔薇ちゃんが、適当に質問を出すから、どっちが良いか答えてと言う。それでタイプを割り出してやるわ!と意気込みはじめた。私は内心めんどくさいなと思いながらも、事態を終息させる自信はない。なので、大人しく質問に答えていこうと思う。
「んじゃあ、まず…寡黙とにぎやかなら??」
「ああ、そういう2択。どっちも好きだけど?」
「強いていうなら!!」
「寡黙?」
あんまりグイグイ来られるのは苦手だから、寡黙な人の方が落ち着くかもしれない。
「背は高い?低い?」
「それもこだわりないんだけど…うーん、自分より低い男の子は嫌かな。自分より高ければ良いかも。あ、でも、あんまり高すぎると首が疲れる」
なんかこれ尋問されているように感じる。
「犬系?猫系?」
「…ネコ?」
「話し上手?聞き上手?」
「うーん、聞き上手?」
「インドア?アウトドア?」
「どっちでも良いな。私自身はインドアだけど、向こうがそれに合わせる必要はないと思う。好きなことやりなよってなるな。でもインドアだと嬉しいかも?」
何問か答えて行くと、最終的に野薔薇ちゃんは「わからーーん!!」と叫びはじめた。
「つうか、須藤先輩は好みのタイプを考える前に、恋愛について考えた方が良いんじゃないでしょうか」
「伏黒!あんた良いこと言うわね!梓先輩!憧れのデートプランとかないの?」
「え、デート??」
そう言われても、私、人混み苦手だからな。"耳"が良い分、音が鳴り響くところも苦手だし。
「ほら!彼氏ができたら行ってみたいところとか!」
「えー…人があんまりいなくて静かなところ?」
「んなとこ都会にはねーよ!」
「じゃあ、お家デートが憧れです。もう良い?」
「良くない!」
もぎゃー!!と発狂しはじめる野薔薇ちゃんから、後日、大量の少女漫画をプレゼントされました。なお、野薔薇ちゃんは読んだことないそうです。…なんで?
「あ!じゃあ、高専の男の中で!どうしても付き合わないといけないってなったら?」
「………」
なんとなく分かってきた。みんなが言わせたいこと。そして多分、そのことに当事者は気付いてない。いや、気づいててやってるなら、しばらく口を聞いてあげない。
「ねえ!誰ですか?」
否。純粋に聞いてくる人が1人だけいた。私はため息を吐く。虎杖くんにだけ、コソコソっと耳打ちしてやった。
「ほー!!それはなんでですか?」
「波長が合うから」
一緒にいて落ち着くのは確かだ。それだけ言うと私はその場を後にする。数秒後に虎杖くんは口を割るだろう。それまでに逃げなければ。
(良かったっすね!狗巻先輩!!)
(前途多難だけどな)
(でも喜んでるみたいだぞ)
(棘、俺たちは応援してるからな)
(ったく煮え切らないわねー、なんなの!!)
(そろそろ須藤先輩に絞められるぞ)
山奥から、旋律呪法が放たれるまで、あと______。
20210207