「あの美しさ、流れるようなライン、素晴らしい…!」

爛々と、という形容詞が相応しいであろう瞳を輝かせながら海道義光のLBX、月光丸を眺める少女の姿がそこにあった。
頬をほんのりと紅潮させ、ほぅ、とため息をつく様子は恋する乙女と言っても過言ではないだろう。
彼女と月光丸の間には分厚いガラスがあり、直接触れることは叶わない。ガラス越しの距離がもどかしいのか、顔をめいいっぱい押し付けつつ、月光丸の姿を目に焼き付けようとしていた。

「あぁー、いいないいないいなー…月光丸のパーツを隅々まで綺麗にしてあげたい…CPUの反応速度や動作のチェックをしたい…開発中のあんな機能やこんな機能を実装してみたい…あぁっ…でもそんなことしたらあの美しいフォルムが崩れてしまうかも、いやでもやっぱり高性能なのは欠かせないから、いかにバランスよく仕上げるかが腕の見せ所だよねぇ…」
「妄想はそこまでにしたらどうだい」
「もうちょっとだけ!考えるだけタダだから!こんなに近くで月光丸見れる機会めったに無いんだから!」

技術者として、どうしても月光丸を間近で見たい。
真面目な顔でそう名前に頼まれたジンは、なるべく彼女の望みを叶えてやるべく神谷重工の技術者たちに話を通した。
直接触れることは無理だが、ガラス越しに月光丸を眺める許可は下りた。そして現在に至るのであるが。

「月下乱舞のパワーはやっぱりあのパーツの組み合わせが重要なのかな、あーやっぱり細々としたパーツ編成見てみたい…動作テストしてみたい…触れてみたい…あー綺麗だなー、あの完成されたフォルムは誰がデザインしたのかなー、やっぱ高田さんあたりなのかな…お話聞いてみたい…あぁ素敵…まだまだ下っ端の私にはできない仕事だけどいつかは月光丸の整備もしたいなぁ…」

正直に言うと、だいぶ後悔していた。
名前がLBXの研究に熱心で、日々勉強をしては実験を重ね、ジンの持つジ・エンペラーの改良などをしてくれているのはとても助かっているのだが。
彼女は今目の前の月光丸に無我夢中で、隣に居るジンの存在などすっかり忘れて自分の世界へ旅立ってしまっている。
後悔、というよりかは面白くない気持ちでいっぱい、の方が正しいかもしれない。

「…そんなに月光丸に夢中なら、僕のジ・エンペラーなんてどうでもいいんだな」

思わず出てしまった言葉に、しまった、と口を抑える。小さな声だったから名前には届いていないだろうと思ったのだが、しっかりと届いていたようで、ガラス越しに見つめていた月光丸からジンの方へと視線は移動していた。
さっきまでトリップしていたとは思えないほど真面目な表情を浮かべ、名前は少しばかり怒ったような声色で、唇を尖らせつつ文句を言う。

「月光丸は憧れだけど、ジ・エンペラーは特別だもん」
「特別…?」
「私が初めて任された仕事が、ジ・エンペラーの整備だもん。愛情込めて整備してるし、新しいCPUだって開発してるもん。」

思い入れのたくさん詰まってるLBXだから、どうでもいいなんてことは絶対に無い。
そう力説する名前の姿がどこかおかしくて、思わず笑みを浮かべてしまう。

「笑わないでよ、私結構真剣なんだけど!」
「…すまない」
「私、絶対ジンくんと義光さま専属のLBX技術者になるんだからね!」

握りこぶしを天井に高く突き上げる名前の姿を微笑ましく見守りながらも、できるならば自分専属のままでいてほしい、と密かな独占欲に気づかないフリをして、そっとその気持に蓋をした。
彼女が傍にいてくれるのであれば、それでいい。

20110702

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