いつも無表情な彼だけれども、その日はちょっとだけ表情が違って見えた。
そういえば今日はアングラビシダスとやらに行く、と言っていた。その結果が芳しくなかったのだろうか。
聞いてみたところで素直に答えてくれるかどうかは彼の気分次第なのだけど。

「おかえりなさいっ」

とりあえず、当たり障りの無い言葉で出迎える。返事は無い。どうやら不機嫌なようだ。
これは何かしらあったなと確信を抱きつつ、どうやって聞き出すものかと頭の中で試行錯誤していると、手になにかが当たる感触がした。
この大きさはおそらく彼のLBXだろう。目の前まで持ってくると少しばかり破損していた。おそらく今日の戦いでやられたのだろう。
相手を秒殺するのがジンくんのセオリーなのに、珍しいこともあるものだ。

「CPUが負荷に耐えられなかったんだ」

ポツリと彼が漏らした言葉から推測するに、なかなかの好敵手と戦ったようだ。
ジ・エンペラーのCPUが耐え切れないほどの操作をジンくんがするとは予想外中の予想外。
そんな相手が存在するとは、世界とは広いものである。

「強化できるか?」
「もちろんだよーっ!」

えっへん、と胸を張って威張ってみる。ちょうど開発中のCPUがあるのだ。ジ・エンペラーに残っている今日の対戦データを分析すれば対応できるだろう。
破損してる部分も強化したいから、ちょっと研究費を余分にいただけないかな、あ、この間開発したあれを使えば…と頭の中でソロバンを弾く。
だが頭部への衝撃でそれは中断された。鈍い痛み。これはチョップだな。目線で痛みを訴えてもどこ吹く風で、さらりと流される。
でも、「頼りにしてる、名前」と言われると弱いのだ。

「今日、楽しかった?」
「…まあね」

空気が緩くなったのを感じて、今日の感想を聞いてみる。ほんの一瞬だけ、柔らかい表情が浮かんだ。
めったに見ることができないそれを見ることができたのは嬉しかったのだけれど、同時にジンくんにそんな表情をさせた人が恨めしくも思えた。
今の私にできることは、顔も知らないその人をギャフンと言わせるために、ジ・エンペラーの調整を頑張ることだ。うん、負けない。

20110603

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