ジンくんに、もうジンくんのLBXに関わるな、と言われて。
自分の居場所を否定されてしまったような、心にぽっかり穴が開いたような、呆然とした状態でしばらく居た。
ジンくんに拒絶されてしまったら、拒否されてしまったら、名前とジンくんを繋いでいた細い糸はぷつりと音を立てて切れてしまう。それはいつか来るのだろう、と思ってはいたのだけれど、きっと遠い未来のことだと、必死に考えることを放棄していたから。
実際に、その時が来てしまうと、どうしたらいいのかよくわからなかった。
退院して、海道邸に戻ってもジンくんと顔を合わせることは無くて。
こっそりと部屋を訪ねてみても、出かけているようで、ジンくんの存在のかけらがぽつりぽつりと点在する部屋の中でぼんやりと立ち尽くすことしかできなかった。
じいやさんにジンくんの行き先を聞いてみたら、じいやさんも知らないようで。
メールでも送ってみようかと思ったけれど、どんな文面で、何と送ったらいいのか、全然頭に浮かんでこない。
いや、浮かんでくることは浮かんでくるのだけれど、そのたびに「もう関わらないで欲しい」というジンくんの言葉が頭の中で再生されて、手が止まってしまう。
何か、してしまったのだろうか。
気づけていればよかったのだろうか。エンペラーM2の自爆装置に。
もし、名前がしっかりと気づくことができていたら、ジンくんは大切なLBXを失わずに済んだ。
過ぎてしまった過去はどうにもできないことだと、随分前から痛感してはいたけれど。
叶うことのないifを挙げていって、今が変わるわけではないのだけれど。
それでも、辛かった。じわり、と滲んでくる涙に嫌気がさす。ああ、自分は弱いな、と自覚してしまうから。

不意に、CCMの着信音が響き渡った。
慌てて操作すると、義光さまからの呼び出しメールで。
来れるのあればなるべく早く、と書かれていたから、その足で義光さまの部屋へと向かうことにする。

「…義光さま」
「……………」
「あの……」
「……………」

沈黙が、ひたすら重たかった。
義光さまも、もう関わるなと言ってくるのだろうか。緊張で、手が震えた。義光さまにも拒絶されたら、どうしよう。
最悪のビジョンが頭を過ぎる。心臓がやたらと早鐘を打っていて、その音が頭にやけに響いて聞こえた。
でも、それでも聞いておきたいことがあった。乾ききった口内を必死に開きながら、言葉を紡ぐ。

「…エンペラーM2に、自爆装置を仕込んだのは、義光さまですか」
「……………」
「私の、整備の腕がまだ未熟だから、ですか」
「……………」

無言は、肯定を意味していて。
やはり、自分がいけないのだ。整備の腕が未熟だから。自爆装置に気づくことすらできなかったから。
全部、自分の所為。全部。全部。全部。
足元が、ぐらりと揺れた気がした。誰かに足を掴まれたような、そんな感覚に襲われて。

『どうして、あなただけ生きているの?』

思い出そうとしても思い出せなかったはずの、お母さんの声が脳内に響いた。
声にならない声が出る。違う。これは勝手な妄想で、本当のお母さんじゃない。
歯を食いしばって、震える足を奮い立たせ、義光さまを見据える。
今は、義光さまの前に居るのだから。凛としてなければいけない。
義光さまは相変わらず無言だったけれど、ばさり、と分厚い封筒を机の上に置かれる。
おそるおそるそれを手にとって中に入っていた書類を読む。1部は先日名前が書いた論文で、もう1部はそれに対する意見をまとめたレポートのようなものだった。
結構な量があって、読むのに一苦労しそうなほどだ。一体これを書いたのは誰なのだろう、と表紙部分を見てみると、結城研介、と書かれていた。
以前にもこの人の名前を見た記憶があるような気がする。
でも、どうして義光さまはこれを渡してきたのだろう、と首をかしげていると。

「TO社の者が、君の論文に興味を持ったようだ」
「この、結城さんが…」
「TO社に行って、是非話を聞いてくるといい」

話はそれで終わりだ、と言わんばかりに義光さまは背を向ける。
そのままそこに居てもしょうがないので、拒絶されなかったことにほっと安心しつつ、部屋を去ることにした。
大丈夫。まだ、ここに居てもいいんだ。
CCMを取り出し、TO社に電話をかけ、アポイントメントを取る。
コール音が、やけに長く感じた。

20110907

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