※コロコロGの外伝と絡めた話です




長い廊下をのんびりと歩いていたら、背後から急に呼び止められた。名前ではなく、ジンくんが。

「ジンくんっ!エンペラーちゃんも!」

ぱたぱたと音を立ててこちらにやってきたのは、猫を連れた桃色の髪の女の子だった。
ジンくんの交友関係はあまりよく知らないのだけれど、可愛い女の子の知り合いというのは珍しいなと思う。

「お友達?」
「知り合いだよ」
「ジンくんとは昨日の神谷重工の内覧会で会ったんです!エンペラーちゃんに助けてもらって…」

神谷重工の内覧会。定期的に行われるそれがアルテミスの前日である昨日行われることは知っていたし、行くつもりだった。
けれども、ちょうど義光さまに呼び出されてしまって。月に一度の研究報告日と内覧会が被ってしまうなんてついていない、と意気消沈したので、内覧会に行ったという目の前の女の子が羨ましかった。
義光さまへの報告と天秤にかけたら、明らかに義光さまの方へ傾くのはわかりきってはいるのだけれど。
やはり新型LBXを目の前で見たかったし、きっとエンペラーM2のお披露目もされていただろうから活躍を直接見ていたかった。
ふう、とため息をついてから先ほどの女の子の言葉を思い出す。エンペラーちゃんに助けてもらって、と確かに言った。

「…そういえば、昨日調整してくれって渡してきたエンペラーM2、ちょっと破損多かったね」
「ちょっと、手こずる相手と戦ったからね」
「…私、聞いてない」

海道邸に戻ってきた時、ジンくんはいつもと変わらない顔をしていたけれど、じいやさんが包帯を持って部屋に行ったのを知っている。
何かあったのかと疑問を抱いたけれど、ジンくんは何も言わなかったからこちらからも聞かなかった。言わない、ということは聞かれたくないか、聞く必要の無い話だということは今までの経験からわかってはいる。けれども、エンペラーM2に何があったのかくらいは話してくれてもいいのに。

「おっきなLBX相手に闘うエンペラーちゃん、すっごくかっこよかったんですよー!」
「だよねだよねっ、エンペラーM2はかっこいいよねぇ!デザインがしゅっとしててキリッとしててかっこいいよね!」
「エンペラーランチャーで攻撃を防ぐところとか!」
「遠近どっちもばっちこーいな仕様は私が提案したんだよっ!やっぱいいよねロマンだよねっ!」

シジミちゃんというらしい女の子と、思わず白熱してしまう。
エンペラーM2の格好良さがわかる子と出会えたことはとっても嬉しい。彼女もそれは同じだったようで、ひたすらいろんなLBXの格好良さについて語りつくしたところ、そろそろ両親の元へいかなければ、と2人に会釈をして去っていった。
ひらひらと手を振りながら、後ろ姿を見送る。優しそうな両親と合流し、歩き出す、その姿はまさに理想の親子、という感じで。
少しだけ羨ましい気もした。

「…すまない」
「どうして?」
「昨日のこと…話さないでいたこと」
「話したくなかったから話さなかったんじゃないの?」
「…ああ」

名前に、思い出させたくなかったから、と呟くジンくんの横顔は、どこか遠い、あの日を見つめているようで。
シジミちゃんから聞いたエンペラーM2の武勇伝によれば、ジンくんは橋の上で大きなLBXと戦ったらしい。
エンペラーM2の攻撃によってその橋は崩壊して、結構大変だったとか。
橋、という単語は名前とジンくんにとってはある種のタブーといってもいい言葉である。
嫌でもトキオブリッジのことを思い出してしまうから。
それを危惧して名前には話さなかった、というジンくんの優しさに胸が苦しくなる。
いつだってジンくんは優しい。大事にしてくれる。それはきっと本来家族に向けるべき愛情だったのだろう。
擬似的な家族関係である名前のその優しさを分け与えてくれることが、ただ嬉しかった。

「ジンくん、…ありがとう」
「礼を言われるようなことはしていないよ」
「いやいやー、たっくさんあるよー、お礼言わなきゃいけないこと」
「それは僕の方だ」

そっと、どちらからでもなく手を繋ぎ、歩き出す。
大丈夫、今はもうひとりじゃないのだから。
繋いだ手から伝わる温もりはただひたすら柔らかく、優しいものだった。

20110803

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