アルテミスの会場である、お台場ビッグスタジアムはとても広い。 会場まではタクシーを駆使してなんとか辿り着くことは可能だろうが、問題は会場の中だ。 CCMに新着メールは来ていなかったから、おそらく会場内に辿りつけたのだとは思うけれど、一度目で確認しておかないと心配でしょうがない。 本当ならばAブロックが始まるまでに会場内を見て回りたかったのだが、時間があまりにも無かった。 Aブロック決勝が終了後、足早に会場内を見渡す。人がたくさん居て、なかなか目的の人物を見つけられない。 「ジンくん!」 耳に聞き慣れた柔らかい声が入ってくる。 その方向へ目をやると、両手を大きく振りながらその場で飛び跳ねている名前の姿があった。 傍には何回か名前の通っている喫茶店で会ったことのある女性が立っていた。おそらく彼女が名前を案内してくれたのだろう。 最初は一緒に連れていって欲しいと言っていたのに、戦闘機で行く予定だと告げた途端1人で行くと言っていたから迷子にならないか心配だったのだが、知り合いが居るのであればひとまず安心だ。 会釈をし、名前たちの方へ歩き出す。それが待ちきれないようで、名前もジンの方へとやってきた。 「ジンくんっ、決勝進出おめでとうー!」 「当然だよ」 「だよねっ、エンペラーM2の調整頑張ったもん!」 「…試合、見ていても大丈夫だったかい?」 「観客席は結構離れてるから、そこまで大きな音しないし。ひとりじゃないから、だいじょーぶだよ!」 もうひとつの心配ごとであった名前のLBXバトルに対する不安も大丈夫そうなことに安堵を抱きつつ、決勝に向けて、エンペラーM2のメンテナンスを頼んでもいいかと尋ねると、もちろん、と笑顔で応えてくれた。 ちょっと行ってきますね、と連れの女性に告げてから名前はジンの隣へ並び、歩き始める。 別に名前ならどこでだって調整は可能だろうけれど、なるべく集中できる方がいいだろうと調整用ブースへ向かう。 廊下を進む途中、ふと頭の中で引っかかっていたことがあることを思い出す。 「名前」 「ん?なぁに?」 「…準決勝を見て、どう思った」 Gレックスは、エンペラーM2の必殺ファンクションを、通常技で相殺してしまえる程の力を持っていた。そして、エンペラーM2はGレックスの必殺ファンクションをくらっていたから、あの攻撃が当たっていたらGレックスが勝利することはできただろう。 わざと、攻撃を止めなければ。 ジンにはそう見えたのだが、向こうはそれを否定した。そのことに、やけに違和感を覚えてしまう。 「…Gレックスの動きが、最後妙だったよね」 「観客席からでも、そう見えたのか」 「うーん、私はオペラグラス使ってたからわかったんだけど、普通に見てたらわかんないかも」 「…そうか」 「ジンくん、…気をつけてね」 何だかよくわからないけど嫌な予感がする、と名前は不安そうな表情を浮かべた。 そんな顔をさせるためにアルテミスに出場しているわけではない。 そっと、名前の頭を撫でるように手を乗せてやると、ふにゃりと気の抜けた顔になった。 「エンペラーM2の調整、頼むよ」 「おうとも!お任せあれですよ!」 ジン自身も、胸の中にざわざわとした違和感を感じていたが、気づかないフリをして。 名前の予感が実現しないことを願った。 20110728 | |