もどかしい世界の上で

神は誰を救いたもう。
もしも、神様がこの世にいるのであれば。
たったひとつだけ。
たった、ひとつだけでいいから。
願い事を叶えてはくれないだろうか。

雷門中のグラウンドでは、日本代表選抜試合が行われている。代表候補の中に円堂はもちろん、雷門サッカー部だったメンバーが多い。
そんな彼らの背中を、彼は、半田真一はどんな気持ちで見つめているのだろうか。
名前は視線をほんのすこしだけずらすと、半田の横顔が目に映った。彼の瞳はグラウンドではなく、どこか遠くを見つめているようだ。目線を下におろすと、膝の上に置かれた手が白くなるほど握りしめられていた。

やる気がなかったとはいえ、半田は最初から雷門中サッカー部所属だった。円堂や染岡との付き合いもそれなりに長い。友人が頑張っている姿を応援したい気持ちもあるだろう。でも、それ以上に。
どうして、自分があの場所に立っていないのか。
実力が伴っていないことはとっくの昔に痛感している。悔しい、よりも寂しい気持ちの方が強いのかもしれない。
かつてFF優勝チームだったメンバーの半分以上が、選抜選手として世界へと旅立ってしまったら。FFIが開催される最中、『雷門中サッカー部』にはほんの数人しか残らない。
自分を置いて、みんなが遠くへ行ってしまう。寂しい、以外になんと言えばいいのだろうか。

試合終了のホイッスルが鳴り響く。半田は無言で立ち上がると、グラウンドを背に歩き出した。

「待って、半田」
「…なんだよ」
「みんなに、声かけなくていいの?」
「かけられるかよ」

必死に我慢しているけど、泣き出しそうな顔に見えた。引き留める理由も権利も名前には無かったので、半田の後ろをついて歩く。
一瞬だけ、ついてくるなと言いたげな表情を浮かべたが何も言われなかったので気にしないことにする。しばらくの間無言が続いた。何か言葉をかけるべきなのか。どうすればいいのか。時間ばかりが過ぎていく。

「…神様が」
「ん?何?」

ぽつり、と半田がつぶやいた言葉はどこか非現実的なもので。思わず聞き返してしまう。

「もし神様がいたら、たったひとつだけでいいから願い事かなえてくれないかな」
「…何をお願いしたいの」
「……みんなと、サッカー、したい。世界を相手に、戦いたかっ…」

最後の方の言葉は涙声で聞こえなかった。自然と足は立ち止まり、半田の隣に寄り添うように立つ。半田の背中を叩いてやると、我慢しきれなくなったのか泣き声が大きくなった。

「神様が、もし本当にいたとしてもさ」
「……なんだよ」
「神様って、何もできないんだよ」

神様は、物事の全てを見守っていて。
例えば迷子の人間の子供と飢えたライオンが森で遭遇したとする。そこで人間の子供を助けるのが神様の役目なのか、と聞かれたら答えはノーだ。人間の子供を助ければ、飢えたライオンは食料にありつくことができずに餓死してしまうだろう。
どちらか片方を助けることで、どちらか片方が助からない。
神はただ、見ていることしかできないのだ。

どこかのおとぎ話でだってそうだ。
水の底で誰かが斧を落とすのをじっと待ってるだけ。

「だから神様が居ても、何もしてくれないよ」
「…じゃぁ、どうしろって言うんだよ」
「私が傍に居るよ」
「え」
「願い事を叶えるとか、そんなたいそれたことはできないけど。半田の隣に居て、愚痴を聞いたりとかすることはできるし」

一人でため込んでしまうことはとても辛いから。だから、寄りかかってもいいんだよ。
なんだよそれ、と若干文句っぽい口調だったが、半田の顔は笑っていた。

「苗字」
「なに」
「…ありがとな」

神様が居ても、居なくても。
こうして世界は周り続けていく。

20100508
あくまでも私の中での神様の定義です


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