最悪な出来事というのは、どうも重なることが多いようだ。 宿題として出されていたプリントを家に忘れ、そんな時に限って当てられて。 体育では隣のコートから飛んできたバレーボールが見事に背中に激突し、青アザができてしまった。 昼休みに元気充電しようとお弁当箱を開けてみればご飯とおかずがみごとに端に寄っていたし、5時間目の数学では抜き打ち小テスト。結果なんて、返って来なくても手に取るようにわかる。惨敗だ。 おまけに掃除当番だったはずの級友たちは今日に限って各々用事があるとかで、無駄に広い音楽室掃除を1人でやるはめになってしまった。不幸だ。 こんなに災難続きなのは過去最高なのではないだろうか。まだ事故に遭っていないだけマシなのだろうけど。 ため息でもつかなければやってられないところだが、ため息の分だけ幸せが逃げていく、と昔誰かが言っていたのを思い出す。冗談じゃない、今日はもうこのまま何事もなく平穏に終わってほしいものだ。 その願いは、帰宅後、母の言葉によって叶わないものとなる。 「あれ、言ってなかったっけ?」 のほほんと通販雑誌のページを捲りながら煎餅をかじるその姿は、気楽な専業主婦そのものだ。いや、実際は仕事の鬼と言われるほどのキャリアウーマンなのだけれど。 しかし、その口から告げられた言葉はあまりにも予想外すぎて一瞬夢なのではないかと錯覚するほどで。 「聞いてないし、初耳なんだけど」 「あらやだ、ごめんね。まぁでも、予定変更とかできないし」 「言い方が軽すぎじゃないですかね、娘の将来がかかってるんだけど」 「お見合いくらいいいじゃない」 散歩でも行ってきたら、というような軽いノリで「今日お見合いだから」と言われる側の身にもなってほしいわけだ。 最初は母がするのかと思っていた。父が他界してから数年、母ひとり娘ひとりの二人三脚でなんとかやってきた生活。 母が新しい恋に目覚め、新しいパートナーを選ぶのであれば反対する気は特に無い。余程人物に問題が無い限りは、だが。 しかし高校生の娘を捕まえていきなりお見合いだなんて、いったいどういうわけなのか。さっぱり、わけがわからない。 「おばーちゃんとの約束なのよ」 「…はぁ?」 昔々、あるところに政治家の息子と資産家の娘がいました。 パーティーで知り合った2人は自然と意気投合し、いつしか惹かれあうようになりました。 ですが悲しいことに、お互いにはすでに決められた婚約者がいたのです。親の決めたことに逆らうことのできなかった2人は、ある約束をして泣く泣く別れることとなったのでした。 「いつか私たちの娘…それか、孫ができたらその子たちを婚約者同士にしましょう、って。ロマンチックよねぇ」 「待って、もしかしておばーちゃんのそんな約束のせいで私今お見合いさせられようとしてる?」 「いきなり婚約者って話は急だから、お見合いにしたのよ?」 「そういう問題じゃなくて!当人同士の意見丸無視ですか!」 「いいじゃない、玉の輿だよ〜?」 別に、お金がどうとかそんなものはどうでもよかった。 我が家が昔資産家だったとか、そういった話は聞いたことはあったけれど、今の平々凡々な暮らしで充分満足なのだ。 母娘2人で支えあって、毎日笑顔で。そんな生活で、充分だと言うのに。親の心子知らず、いやこの場合は逆だ。子の心親知らず。 頭痛がしてきたような気がしてこめかみを押さえ込んでいると、母が押入れから何かを取り出していた。嫌な予感がする。視線に気がついた母が、満面の笑みで取り出したソレを見せてくれた。 「はい、振袖。きっと名前に似合うわよ〜、大丈夫!お母さん着付けできるから心配しないで!」 心配したいのはそっちじゃない、という言葉を飲み込んで、うすら笑いを浮かべる。逃げたい。 20110718 | |