※現パロ

空はどこまでも続いていく。青く、果てしなく。
眩しさがより一層強くなった太陽光がジリジリと肌を焦がしていく感覚は、あまり好きではなかった。
地面から漂ってくる夏独特の匂いと、二の腕あたりから香る日焼け止めの匂いが入り交じって独特の空気がそこにあった。
用務員さんから麦わら帽子でも借りてくればよかった、とため息をつきつつ長いホースを手に取り一番近い蛇口へと足を運ぶ。
目に入りそうになる汗を首に掛けていたタオルで拭う。本当に今日は暑い日だ。
きゅ、きゅと甲高い音が辺りに響く。しばらく待てば、手に持ったホースへと水が行き渡る。頃合いかな、と目の前に広がる畑に向かってそれを伸ばした。
はずだった。

「わわ」

予想外のことがふたつあった。
ひとつめは、水の勢いが思ったより強かったこと。ふたつめは、名前の伸ばしたホースの目の前に人が現れたということ。
ひとつめの予想外によってホースから流れ出る水は完全にコントロールを失い、ふたつめの予想外によって見知らぬ人に水が盛大にかかってしまった。
完全に思考が停止し、顔が真っ青になる。どうしよう。とにかく声をかけないと。このまま逃げるわけにもいかない。

「あの、大丈夫ですか」
「大丈夫だ、驚かせてしまってすまんな」
「…あ」

見知らぬ人、ということについては訂正しなくてはならない。
最初はいきなり現れたものだから誰だかさっぱりわからなかったけれど、よくよく見てみれば濡れ鼠と化して前髪が下がってはいるが、目の前の人物はかの徳川家康くんだった。
生徒会選挙に立候補して、見事当選を果たした新任生徒会長。ついでにいうと名前と同じクラスで、確か座席が同じ列だったはず。

「ごめんね、ちょっと私の汗染みてるかもしれないけど…タオル、今これしかないんだ」
「構わないさ、ありがとう苗字」

爽やかに笑う徳川くんはわしゃわしゃと頭の水分を拭きとっていく。
その様子を眺めながら、ちょっと涼しそうだな、なんて考えてみる。黒髪は熱を吸収しやすいから、水をかぶって冷やせばこのぼんやりとした頭もすっきりするのではないだろうか。
あれ、そういえば。

「徳川くん、なんでこんなところに来たの?」
「あぁ、部活動の様子を見てまわろうと思ってな」

予算申請は書面での提出だが、その申請額が果たして活動に見合っているのかどうか。
届出にある部員数ははたして本当に正しいのか。活動場所のルールは守られているのか。
部活同士の暗黙の了解となりつつある部分もあるかもしれないが、それを一度きちんと自分の目で確かめてみたい。と徳川くんは真面目な顔で教えてくれた。

「じゃぁ、ここには園芸部の様子を見に来たってことかな」
「その通りだ!苗字は園芸部だったか?」
「…実は違います」

頭に疑問符を浮かべた徳川くんは、じゃぁ何故ここに?と問いかけてくる。ごもっとも。
ここらの畑は園芸部の管轄で、校舎よりもやや離れた位置づけにあるため場所を知ってる人はあまりいない。
そんなところに園芸部でもない名前が何故いるのかと聞かれたら、成り行き、と答えるしかなかった。
本来園芸部に所属しているのは、名前の友人なのだが、彼女は不運なことに先日階段の一番上から一番下まで転げ落ちるという事故にあってしまった。
怪我は軽傷で済んだのだが、足をやられてしまったため移動が困難な状態になった。これでは畑に水やりに行けない。他の園芸部員に代わってもらえばいい話なのだが、悲しいことに園芸部は弱小部であり、部活を名乗れるほどの最低人数しか居ないのだ。当番制としていた水やりもぎりぎりの状態でローテーションしているため、どうしようもない。
そこで名前に白羽の矢が立ったのだ。名前自身が部活に行く前のほんの少しの時間でいいから、水やりを自分の代わりにしてくれないか。
今にも食い殺されそうな勢いでそう頼まれれば、首を縦に振るしか無い。
そのような経緯があって、今園芸部員でもなんでもない名前はここにいる。園芸部の様子を見に来た徳川くんに、なんだか申し訳ない気持ちになった。

「ごめんね、園芸部員でもないのに活動してて」
「何故謝る必要があるんだ?苗字は友人の為にしているんだろう、いいことじゃないか」
「でも徳川くん、園芸部の様子見に来たんでしょ」
「また別の日に来ればいいさ。今日はいい絆の力を見させてもらった!」

頭に、軽く手を載せ撫でられる。白い歯を見せてニカッと笑った徳川くんの笑顔がとても眩しくて、顔に熱が集まったような気がした。
それはたぶんきっと、徳川くん自体がまるで太陽のようだから。

20110627

徳川家康(bsr)


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