辺り一面は雪。全部雪。真っ白で、そして寒い。とにかく寒い。
今まで住んでいたところは雪は降っても積もることなんてなかったから、なんだか新鮮で楽しかった。最初は。
約束の時間は1時。携帯を開いて時間を確認すると、3時を少し過ぎたところだった。
遅い。遅すぎる。
午前中は部活のミーティングがあるとか言っていたけれど、それが長引いたのだろうか。
それならば何故文明の利機である携帯電話を活用しないのか。

「家に忘れたとか言ったら殺す…」

覚えてる限りでは小さい頃のあいつは相当天然だった。天然すぎて力が抜けるくらい。
7年。
もう、7年が経つのだ。
私と、あいつが最後に会ってから。

両親の急な海外転勤が決まって、一人日本に残りたいと我が儘を言った私。一人暮らしをしてでも、と思ったけれど女の子の一人暮らしはあまりいいものではないと両親、とくに父親に渋い顔をされた。
でもそんな快く迎えてくれたお父さんの弟、私にとっては叔父さん。丁度私と同い年の一人息子がいて、私も小さい頃はよく一緒に遊んだ。
親子で住んでるところに私なんかがお邪魔していいのかと思ったけれど「女の子が居た方が華があっていいんだよ」みたいなことを言っていた。そのご好意に甘えて厄介になることにしたのだけれども。

「遅い…」

駅まで迎えに来てくれるはずの、肝心のいとこが来ない。もう待つのも疲れた。寒いを通り越して、感覚がなくなってきている。当たり前だ。雪の降る中で2時間も待たされたら誰だってそうなる。
思わずため息をこぼした直後に、目の前に影ができた。

「雪、積もってるぜ?」
「知ってる」
「寒いか?」
「誰かが2時間も待たせてくれたお陰でめっちゃくちゃ寒いです、死にそう」
「え、マジ?」

目の前に居る少年は慌ててポケットに手を入れた。しばらくごそごそと中を探っていたが動きを止め、向こうに見える時計台の方を見た。

「わ、ホントだな。まだ2時くらいかと思ってた」

あはは、と笑う少年。ちなみに2時でも1時間の遅刻だ。恨みがましく見つめていると、ほっぺたに暖かさを感じた。

「ほらよ、待たせたお詫びと再会を記念して」
「それふたつ併せて自動販売機で100円で売ってるココアとはずいぶん安いものですねぇ?」
「まーまー」

お互い顔を見合わせて、笑い合う。あぁ、懐かしい。本当に。

「7年ぶり、だな」
「そうだね」
「まだ俺の名前覚えてるか?」
「うん、花子」
「俺、男の子なんだけどなー」

ちょっと困った顔をした少年のことは無視無視。私はだいぶ執念深い。これくらいは、許される範囲だろう。
もうだいぶ冷え切ってる体に鞭打って、ベンチから立ちあがる。ココアの缶で暖を取りつつ、荷物に手を伸ばす。よし、準備はできた。

「じゃ、行きますか」
「俺の名前はー?」

唇をちょっと突き出して、いじけてる彼の顔を見たらこれからの生活が本当に楽しそうで。
笑いながら、私は彼に手を差し伸べた。

「いこっか、武。」
「……ん」

それは雪の降る日の出来事だった。

20061124初出
20110622書きなおし

山本武(復活)
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