※現パロ

流れ星を見たら、願いごとが叶う。
見ただけで叶う、という話もあれば流れ星が輝いている間に願いごとを3回唱えると、その願いが叶うという話もある。
昔に読んだ童話では、流れ星は誰かの命が消えようとしている象徴だと語っていた。
こういった伝説や逸話には様々な説があるものだ。どれが正しい、のではなくどれが自分の考えに一番近いのか。それが重要だと思われる。

ふと目に留まった天体関連の本を棚に戻してから、壁時計を見ると、予想以上に時間が経っていた。
どうやら思っていたよりも熱中してしまったようだ。生徒会の仕事の無い日でよかった、と息を吐く。
図書室を後にし、校門へと足を向ける。ふと、廊下からパタパタと足音が聞こえてきた。
ほとんどの生徒が下校しているこの時間は、音を吸収するものがないのでよく響く。音だけだったら特に気にもせず下校するところだったのだが、その音の持ち主と思われる女生徒は少し大きめの筒のような物を持って廊下を駆け抜けて行ったものだから、思わず目で追ってしまった。
彼女は、確か同じクラスに所属していた気がする。名前までは記憶していない。興味があるわけでもなく、これからも無いままの予定だったのだが。
気がつくと、彼女の足取りを追っていた。階段を上って、上って、上って。
たどり着いた先は、本来なら立ち入り禁止であるはずの屋上。常時鍵が掛かっているはずの入り口は、無理に力を入れる必要もなく、ギィ、と古めかしい音を立てながら開いた。
その音に反応したのか、とっくに屋上に着いてたいた彼女はこちらを見る。辺りはだいぶ暗くなっていたので、表情までは読み取れない。

「…石田くん?」

彼女が自分の名前を知っていることに、少しばかり驚愕した。同じクラスではあるが、会話など一度もしたことがないのだから。
現に三成は彼女の名前を知らない。なんと返せばいいのかいいのか躊躇っていると、その空気を読み取ったのか、彼女は少し間延びした声で自分の名前を名乗った。

「私、同じクラスの苗字名前だよ」

そういえば今日の日直の1人がそんな名前だった。
何故、こんな普段なら気にもしないクラスメイトの後を追ってしまったのだろうか。三成自身にも、理由はよくわからない。
入り口から一歩も動こうとしない三成に対し、首を傾げながらこんな時間にどうしたの、と名前は尋ねた。
それはこちらのセリフだ、と返してやりたいところなのだが、口が思うように動かない。名前が独特のテンポで話すものだから、こっちの調子が狂わされてしまう。

「私はね、これから部活動なの」
「…1人でか」
「うん、別に1人でも星は見えるからね」

やっと絞り出せた声に、弾んだ声で返答があった。
相棒はこの子なんだ、とさっき廊下で運んでいたと思われる細長い筒を撫でる。さっきは一瞬だったからよくわからなかったが、よく見るとそれは天体望遠鏡のようだった。

「他の部員はいないのか」
「私1人。本当は、先輩が居たんだけどね、私の入学と入れ替わりで卒業しちゃったの」
「…顧問は」
「いないね、本当に私1人」
「それは部活とは呼べない」
「そうだね、でも天文部の方が言いやすいじゃない」

会話の合間合間に、天体望遠鏡を組み立てていく。
屋上の鍵はどうしたのかと聞けば、卒業した先輩から受け継いだそうだ。代々部長がひっそりと、引き継いでいくものらしい。
よし、という声が響いた。どうやら望遠鏡のセッティングが終わったようだ。

「石田くんも、よかったら一緒に星見る?」

誘われるままに屋上の中心へと踏み出す。
今日はきっと空が澄んでるから綺麗に見えるよ、と若干はしゃぎながら望遠鏡を調整する名前の姿は子どものようだった。
疑問点が、ひとつある。
顧問の教師もおらず、活動人数も1人だけというのは部活はおろか同好会とも言えない。
教師の許可無く立ち入り禁止の屋上で天体観測、という名前の行動は許されないものだ。そんなところを、生徒会役員である三成に目撃されて、何故へらへら笑ったままでいられるのだろうか。
三成が生徒会に持ち込めば、すぐさま問題行為として咎められるだろう。それをそのまま名前に問いかける。

「あ、そっか、石田くんって生徒会役員だっけ」
「知らなかったのか」
「忘れてた…うん、そんなのどうでもよかったんだよ」

ただ、石田くんと星を見たいなって思っただけなんだ。
純粋なその答えは、やけに居心地悪く、くすぐったく感じた。
遠くの空に一筋、流れていく星がきらきらと光っている。

20110609

石田三成(bsr)



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