(二人の男〜一人目〜)
ああ、また失敗したようだ。
うんざりしながらキーブレードをしまい、そっとため息をつく。
時が戻ってゆく感覚はこれで五度目。とある条件を果たすと毎度あの舞踏会の前夜に時が戻っている。自身の知る限り、他にこの現象を知っているのはひとりだけ。
初めは光の王国を攻めた数日後に突然起きた。王族の数人には重傷を負わせたが逃げられていた。
二度目はまた光の王国を攻めた夜。きっちり目の前で王族を皆殺しにしたときに起きた。
三度目はフィリアのみを捕らえたが、あまりに反抗的な態度のため殺したところループした。
ここで、信じがたいことであるがフィリアが死ぬとこの時間遡行が起きていると仮説をたてた。
だから四度目は大切に牢獄に放り込み、利用しようとしたが自害されて巻き戻った。
そうして、五度目。フィリアさえ生きていればよいだろうと目印をつけ、逃げられないよういくつも枷をつけた。彼女への対応、待遇をマシにすれば時は先へと進んだが、攫おうとしたヴェントゥスへ怒りを覚え、ついうっかり殺してしまったところこのザマだ。
「やっかいなことだ……」
舞踏会の前夜まで、空が高速で夜になり、昼になり、夜へと変わってゆく。
目を閉じて、この面倒な状況の原因であろうフィリアのことを考えた。
舞踏会で彼女を褒めた時の感触は悪くなった。初めから嫌われているわけではない。着飾らせた姿は手放しがたいと思う程度には美しかった。ならば、次はあの女を本気で口説き、支配する。そしてヴェントゥスたちのこともとりあえず生かしておけば、もう時は戻らぬはず。
「次こそは――」
「何か?」
目の間で明日の予定を読み上げていたサイクスが、ハテとこちらを見上げてくる。光の王国の城の屋上にいたはずなのに、いまは帝国の自室にいた。もうあの夜に戻ったのか。初めて遡行した時にふざけているのかとサイクスを問いただしたことすら遠い昔のように感じた。
「いや。なんでもない。続けてくれ」
サイクスは怪訝そうな表情をしたが、それでも淡々と語った。
「明日の光の王国の舞踏会についてですが――」
2.12.27
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