朝日と競うように起きて自己鍛錬を行う。習慣化に従い目覚めたゼアノートは、この世界で何度ついたかわからぬため息をまた吐いた。寝て起きれば元の世界に戻っているかという淡い期待は、昨夜と同じ天井により打ち砕かれたことを理解する。
 ゼアノートは起き上がり、乱雑に髪をかきあげてからキーブレードを出現させた。陽の光に銀(しろがね)に輝くキーブレードは、やはりどの回廊も開くことはなかった。





 山頂で鍛錬を済ませたゼアノートが戻ってくると、前庭でエラクゥスがテラとアクアの朝の鍛錬を見てやっていた。ふたりが懸命に素振りをしている姿を眺めていると己の少年時代を思い出し、失った友たちと並び学んでいたころの記憶が蘇ってくる。つい懐古的な気分になっていたゼアノートへエラクゥスが「おはよう」と声をかけてきたので挨拶を返す。テラとアクアもわざわざ素振りを止めて挨拶してきた。ゼアノートは首を傾げる。頭数がひとつ足りない。

「フィリアは?」
「まだ寝ています」

 答えたのはアクア。ゼアノートはエラクゥスを見る。たとえキーブレードを継承していなくても、早いうちから剣術の訓練はしておいた方がいいのでは? 視線から意思をくんだエラクゥスが苦笑した。

「あの子はいいんだ」
「……そうか」

 なぜと更に問いたかったが、これ以上の会話はテラとアクアの修業の邪魔になる。後から聞くことにして、ゼアノートは一足先に汗を流しに城内へ入った。





 シャワーを終えてすっきりしたゼアノートが浴場から出ると洗面所にフィリアがいた。やっと起きて歯磨きをしていたらしい。彼女はゼアノートの登場にビクッと肩を跳ねさせた後、それでも舌ったらずに挨拶してきた。無視するわけにもいかずゼアノートも挨拶を返す。

「あっ、ゼアノートお兄ちゃん」

 早々に立ち去ろうとしたゼアノートは、今まで呼ばれたことのない敬称に内心驚いた。フィリアは硬直したゼアノートにトテトテ寄ってくると、うんと上を向いてゼアノートと視線を合わせてくる。

「朝ごはん、いっしょに作ろ」





 朝食の用意ができた頃。匂いにつられたように、エラクゥスたちが食事の席に現れた。

「おっ、うまそう」
「ゼアノートお兄ちゃんがたくさん作ってくれたの」
「そうか。ゼアノートお兄ちゃんの手料理なんて久しぶりだ」
「その呼び方はやめろ」

 フィリアに火も包丁を使わせないようにしていたら、ほぼゼアノートが作っていた。そもそも誘いを断りきれなかったこともあるが、この小さくて弱くて柔い生き物の、あの危なっかしい手つきをつい放っておけなかったことが敗因だ。
 全員席につき、ゼアノート以外がニコニコな表情で声を合わせていただきますと唱える。パクリと食べた瞬間に子どもたちは皆パッと瞳を輝かせ何度も「おいしい」と繰り返していた。「当然だ」という思いと「なぜ俺はここで子どもに食事を与え、エラクゥスと食べているのか」という葛藤に苛まれながら、ゼアノートは黙々とフォークを動かす。

「やっぱり、ゼアノートの料理はうまいなぁ」
「食器はおまえが洗えよ」
「あ、俺たちが洗います!」
「じゃあ、全員で協力して洗おう」
「はい!」

 能天気なエラクゥスの笑顔にツンと答えたはずが、また新たな親睦イベントのように盛り上がる面々にゼアノートはうんざりする。


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