アズールが魔法史の授業のため、ひとり廊下を歩いていた時のことだ。曲がり角に差し掛かった時、ばったりジャミルと会った。
 アズールはジャミルを気に入っている。持たざる者が努力と執念によってすべてを手に入れようとする姿勢はとても好感と親近感がわくからだ。加えて彼が仕えるのは世界に名高い大金持ちのカリム・アルアジール。
 アズールは反射的に、よく「うさんくさい」と言われる営業スマイルを作った。

「おや、ジャミルさん。奇遇ですね。もしかして次の授業は魔法史ですか?」

 アズールは「授業が一緒だったら隣に座りましょうよ。友だちなんですから」と誘うまでの流れを作り出そうとしたが、キレ者であるジャミルの反応はつれないもの。

「そうだが。俺はおまえと一緒に次の授業に行ったりなんてしないぞ」

 ジャミルはアズールを警戒しているし、オーバーブロットの時の恨みもまだあるだろうから誘いを断ってくるのはアズールの想定内であったが、ありありと文句がありますといったような目線でねめつけられるような心当たりはない。アズールがハテ? と思っていると、ジャミルが言った。

「最近、ほとんどの寮生が、“どこかのカフェ”に入り浸っているせいで、ただでさえ低い成績が更にどん底へ落ちているからな。休み時間のわずかな合間でさえも寮生の勉強を見てやらないと、これ以上の落第者の増加は寮長責任になりかねない」
「それは大変ですね。では、その方へいつもご利用ありがとうございますとお伝えください。それと、本当に困った時は僕にもお手伝いできることがあるかもしれません。もちろん、それなりの対価はいただきますが」

 それでは先に教室へ行っていますね。よかったらジャミルさんの席を取っておきましょうか。なんて、アズールはしれっとジャミルの不満を流そうとした。一方、ジャミルは眉間に皺を寄せてフンと鼻を鳴らす。

「いまのうちだけさ。近々、スカラビア寮はモストロ・ラウンジの利用を制限する予定だ」
「それは聞き捨てなりませんね」

 アズールから笑みが消えたことは、ジャミルの気分を幾分良くしたようだ。彼は唇を釣りあげた。

「学生の本分である学力に深刻な影響が出ているんだ。当然の措置だろう」

 じゃあな。とジャミルは艶やかな黒髪をサラサラ揺らしながら去って行った。彼の背を見送っているようで、アズールの脳内は金勘定でいっぱいだ。
 スカラビアの生徒は金払いがいい。出入り禁止令なんぞ出されたら売上がどれほど落ちるか。それにこれはスカラビアだけの話ではないかもしれない──。
 アズールはポケットから携帯電話を取り出すと、フロイドとジェイドへ緊急幹部会議の招集をかけた。


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