アズールのVIPルームの机にずらりと並ぶ、てんこもりの酒とおつまみ。ジェイドがたっぷり入ったコップを片手に、わざとらしく咳払いした。

「では、第7回・オキアミちゃんを異世界に行かせないゾ! 作戦会議を始めたいと思います」

 ソファに腰かけたフロイドは、タコ足を噛みながらゲンナリした表情でジェイドを見上げる。

「毎回言ってるけどさぁ。このネーミング、超ダサイよね。誰のセンス?」
「こんなもの、分かればなんでもいいんですよ」

 普段の気取った様子など欠片も見せず、酒をあおりながらアズールが言い捨てた。普段は厳しい自己管理を徹底している彼だが、この会議中は好きなだけ飲み食いする予定である。
 司会を勤めるジェイドは、さっそく強い酒をグビグビ飲みながらホワイトボードの前に立った。

「まず、今までの作戦と結果を振り返ってみましょう」

 キュッ、キュキュ〜ッとペンの音を立てながら、ホワイトボードにジェイドの乱暴な字が書かれてゆく。酔っているせいか、たまに海の文字が入り混じるが、ここにいるのは海出身の者のみなので問題ない。
 フロイドは甘めの酒を舐めながら記憶を辿った。

「え〜と。1回目は、小エビちゃんとアザラシちゃんの命が惜しければ異世界に行かないでってお願いした」
「校舎が壊れるかと思うほどの大ゲンカになりましたね」
「僕の助言を聞かず、フロイドが先に折れたんですっけね」

 うんざりした表情でアズールがカラアゲをつまむ。フロイドは眉を下げた。

「だってぇ。嫌われたくないじゃん……」
「惚れた弱みですねぇ」

 ジェイドが「脅し」の言葉の上にバツマークをつける。

「2回目は、エッチしまくって身体から俺に依存させようとした」
「フロイドったら、僕の助言も忘れて、おねだりされたらすぐに与えてしまうんですから。ただのラブラブエッチ留まりでしたね」
「だって、素直に求めてくれるのカワイイんだもん。あれ以上我慢すんの、オレの方が耐えらんない」
「いけませんよ。躾けはキチンとやっておかないと」
「ん〜。オレ、別にオキアミちゃんをペットにしたいわけじゃないし」
「惚気てる場合じゃないですよ。次」

 アズールが酒をごきゅごきゅ飲んで、ケッと吐き捨てる。

「3回目は、いなくなったらオキアミちゃんのこと忘れてやるって言ってみた」
「これは、結構効果あったのでは?」
「『私もワガママを言うから仕方ない。先輩が他の誰を好きになっても、私はずっとフロイド先輩が好き』って泣かれて失敗した」
「惚れなおしてる場合じゃないですよ」

 アズールは酒瓶を振るも、すでにジェイドが飲み切って空であった。新たな瓶を探す。

「4回目は〜……なんだっけ。監禁しようとしたんだっけ?」
「ええ。海の底まで連れこんで閉じこめましたが、普通に抜け出されてしまいました」
「あの鍵があるもんね。人魚に変身したオキアミちゃん、可愛かったなぁ〜」
「スマホの待ち受けにして毎日見てるでしょう。次」

 アズールはキュポンと酒瓶の蓋を取り、逆さにしてなみなみと注いだ。

「5回目はジェイドと一緒に魔法薬を作って、オトモダチの記憶をなくしちゃえって考えた」
「昼食に仕込みましたが、グリム君が食べてしまい、不発で終わりました」
「よりにもよってカツサンドに混ぜたせいですね。彼の食い意地を甘く見てました……」

 アズールは、さきいかをギリギリ噛みしめた。

「6回目は、オキアミちゃんの鍵の剣を壊そうとしたけど、これを壊したら死んじゃうって言われて諦めた」

 よどみなく進んでいたジェイドのペンが、そこで止まる。

「実は僕、コレはちょっと疑っているんですよね。あの時の彼女の視線は、とても不自然に泳いでいました。もしかすると嘘かもしれません」
「でも、試すにはリスクでかいじゃん。本当に死んじゃったらイヤだし」
「そうですね。いまはまだ、別のアプローチで攻めるべきだ」
「では、もし嘘だったなら壊しましょう。あれがなければ異世界へも行けないでしょうし、監禁もしやすくなります」
「異世界に行けなくなるなら、別に閉じこめる必要なくね?」
「ジェイドの物騒な考えはともかく。まさか僕らがここまで苦戦するとは。フィリアさんもやりますね」

 フーッとアズールがため息を吐いた。フィリアのしぶとさとフロイドの甘さが原因で、今までの作戦はことごとく失敗し、アズールのプライドはボロボロだった。

「しかし、安心しなさい。フロイド。この僕が、今度こそ完璧な作戦を考えましたよ!」

 フロイドが「やった〜! ありがとね、アズール」と喜びながら酒をラッパ飲みし、ジェイドも「僕にできることなら、喜んでお手伝いしますよ」と5杯目の酒をあおる。
 アズールは酒から手を放し、片足を行儀悪く椅子に乗せてポーズを決めた。

「7回目の作戦は『罪悪感』です!」

 ジェイドがホワイトボードを裏返し、新たな白面にデカデカとテーマを書いた。でかすぎて他の文字が書ける余剰がほとんどない。

「フィリアさんの性格と、彼女には甘いフロイドの性格を噛み合わせた完璧な作戦です! 無償の自己犠牲が善行なんて洗脳から解き放ってさしあげますよ……」

 ニタァっとした笑みで、アズールは作戦の詳細を説明しはじめた。



R2.10.2


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